紺色のひと

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結婚披露宴の写真を頼まれても、お断りする理由がある

「結婚披露宴で、写真撮ってくれない?」

親戚や友人に「写真を趣味にしている」と認識されていると、披露宴などの写真係を頼まれることがあります。結婚おめでとう! 心からお祝いするよ。ただ、頼んでくれること自体は嬉しいのだけれど、こちらにも安易に請け負うわけにはいかない理由があるんですよね。結構悩ましい部分もあると思ったので、この機会に言語化してみました。

ということで本エントリは、
 (1)周囲に結婚する年齢の親戚や友人がいて
 (2)写真が趣味だと周囲に認識されていて
 (3)披露宴などで写真係を頼まれた
ひとを想定したものになります。まったく同じ悩みを持つひとの絶対数はあまり多くないかもしれませんが、「社内イベントの撮影係をお願いされて…」「学校行事でカメラ係に決まったけど…」という、似た事例はたくさんあるかとも思いますので、どこかで参考になると嬉しいです。

また逆に、「これから披露宴で、友達に写真係お願いしようかな」と思っている方には、撮る側が懸念していることが抽出されていますので、お願いしたい方と話し合うときの参考になるかもしれません。



もくじ

  1. 頼む側にも理由がある
  2. できればお断りしたい理由がある
    1. あなたが思うほど、僕は写真が上手くない
    2. どこまで要求されてるのかわからない
    3. 正直、責任とれない。
    4. 落ち着いて披露宴に参加できない
  3. どう断るか、断り方を考えてみる
  4. とはいえ、めでたいことだし。
  5. 「安易に引き受けちゃいけない」との思いを強めたごく個人的な体験談
  6. だから僕は好きに撮ることにした

1.頼む側にも理由がある

頼む側が「友人に写真をお願いしたい」と思う理由で大きいのは金銭的な問題……つまりは撮影費等をなるべく抑えたい、というものではないでしょうか。僕もそう思ったし、その動機が悪いものだとも思わないです。ただでさえ式にはお金がかかるんだし、削れるところがあったら削っておきたい。ワカル。

他にも、友人知人に写真をガチ趣味にしているひとがいて、ぜひ自分たちの晴れ舞台をそのひとに撮ってもらいたい……というのもあるでしょう。僕の弟はそれだったようで、直接交渉して、費用をお支払いしてお願いしたと聞いてます。

理由がなんであれ、披露宴を行う側として、プロでない誰かに写真をお願いするという選択それ自体は悪いものでもなんでもないと思います。このご時勢、スマホなんかで一人一台以上カメラを持っているのが当たり前になりつつあるし、一眼レフやミラーレス一眼だってずいぶんと普及しました。カメラで写真を撮る、という行為についての認識・意味合いが変わりつつある、過渡期なんだと思います。
「あのひとなら撮ってくれるんじゃないかな?」と思ったら、声をかけてみるのもいいでしょう。


2.できればお断りしたい理由がある

ただし、ただし。頼まれること自体は嬉しいけれど、ホイホイ受けることができない理由がこちらにもあるんです。
理由は複数あって、”撮る側”の事情によっても違うでしょうから、いくつか並べて書き出してみます。

2-1.あなたが思っているほど、僕は写真が上手くない

理由その1、頼まれる側の写真スキルや機材の問題。
頼む側は「ちょっと良さそうなカメラ持ってるし、綺麗に撮ってくれるんじゃないかな」と思っているかもしれないけれど、頼まれる側としては「いや…このミラーレス一台で式場をどう撮れと」と困っているかもしれない。もしくは「そりゃ写真を撮るのは好きだけど、おれは風景写真や花のマクロなんかが主で、室内で人なんか撮ったことないし、ストロボだって持ってないよ」と思っているかもしれない。あるいは「最近一眼レフ買ってみたけど、まだ持ち歩き始めたばっかりだよ」という状況かもしれない。

”カメラを持っている”というのは、”結婚披露宴式場で上手に写真が撮れる”と同じ意味ではありません。だいいち披露宴会場というのは、(1)薄暗くて (2)被写体がちょろちょろ動いて (3)照明がめまぐるしく変わって (4)広角から望遠までさまざまな画角が必要とされて (5)頻繁にシャッターチャンスを要求されて (6)参加者とコミュニケーションをとりながらさまざまな表情の一瞬をとらえる という、とても難易度の高いシチュエーションなのです。

そりゃ頼むひとが上手くて室内向けの機材をたくさん持ってて腕に自信があればいいけど、そうでないことのほうが多いんじゃないかな。
実際、結婚披露宴なんかの会場で上手いこと写真を撮ろうと思ったら、

  • 高感度に強いデジタル一眼レフ、もしくはミラーレス一眼を2台*1
  • ひとつに広角ズームレンズ、ひとつに中望遠レンズ(レンズ付け替えの手間を省くため)
  • 広角側だけでも外付けストロボ
  • サブバッテリー

なんかを用意しなきゃいけなくて、ハードルが高い。


2-2.どこまで要求されてるのかわからない

2-1.とも重なる部分があるのだけれど、一応分けてみました。
理由その2、頼む側が「どんなカメラマンをやって欲しいか」を想定しているのかがわからない。
「カメラ持ってるし、せっかくだから」とお願いする側が、どの程度の写真の出来を求めているのかが、頼まれる側にはわからない。

え、写真? そりゃカメラは持ってるけど……プロは頼まないからお願いねってこと? それはプロ並みのを提出しろってこと? とりあえず身の回り撮ってデータあげればいいの? 各テーブル回って集合写真撮れってこと? 新婦側のひとぜんぜん知らないけどそっちも撮るの? ご親戚は?
……考えることは山のようにあるし、打ち合わせすればいいっちゃいいんだけど、撮る条件を細かく聞くのか……え、その切り分けや問題点の洗い出しをするのはこっちなの? という気持ちになったりもします。



2-3.正直、責任とれない。

結婚披露宴、人生の一大イベント。そこで撮った写真が、親戚で回し見されたり、自分たちの思い出になったりするでしょう。
でも、もしおれが撮って、上手くいかなかったら? 機材のこともそうだし、シチュエーションも難しそうだし、もしあの大事なケーキカットの場面で新婦さんが全部半目だったらどうしよう。ご友人やご親戚の撮り忘れがあったらどうしよう。
「上手くいかなかったとき、依頼主である新郎新婦との関係が悪くなるんじゃないか」という恐怖感があります。

お金払ってプロに依頼するメリットのひとつは、ある程度定型化されたプログラムの中で自分の行動をルーチン化して、安定して高クオリティの写真を撮る、ということなのだと思います。その安心感にお金を払っている、と。そこに素人を入れてしまうと、友人知人の大事な人生局面に関わって万一のことがあったとして、それが原因で何か悪いことが起こってしまったときに、こちらとしては責任をとりようがありません。
頼んでくれるのは嬉しいし、力にもなりたいのだけれど、なんかあってあなたと関係がこじれるのも嫌だし……と悩んでしまう。



2-4.落ち着いて披露宴に参加できない

そもそもですね、結婚披露宴というのは「新郎新婦がホストとして『私たち結婚しましたので披露させていただきますね』ってゲストである招待客を呼ぶ」ものじゃないのか、と。
いや、友人親戚として、力になりたい気持ちはありますよ? 出来る範囲で協力はするし、精一杯祝ってあげたいよ? でも、いざカメラを持ってカメラマンやるとなると、もう大忙しだよ。式場についたところから仕事が始まって、待合室で旧友と談笑することもせず、あちこち回って失礼でないようにカメラに収め、「私はカメラマンでござい」といった振る舞いで参加者の方の前を横切って、いざ式が始まったら折に触れて前に出て新郎新婦やご挨拶のかたがたを撮って、しばしご歓談の時間になったら料理かっこんで各テーブルを回って、そうこうしてるうちにお色直しで、新婦のご両親への手紙のときも失礼のないように姿勢かがめて、これ一応一張羅のスーツなんだけどなと思いながら膝ついて、いったん引いて会場の状況撮ったりして、気づいたら汗だくで式も終盤ですよ。

これはものすごく極端な例だけど、ふと我に返って「何しに来たのかな」と思ったことは一度や二度ではなかった(経験談)。

終わった後は後で、たくさん撮った画像データの色調補正なんかが待っていて、かなり時間を食うんです。



2-5.番外:費用面

(今のところ、僕がこれを「断る理由」だと思ったことはないのだけれど、念のため書いておきます)
カメラの機材を揃えるのも、その撮る技術を身に付けたのも、もちろんタダじゃなかった。一度揃えて、撮り方がわかってしまえばもう使うのは自由だから、別にお金を要求しようなんて思わないけれど、ご祝儀や会費払ってずっと写真撮ってて、おれ何しに来てるんだろ? という状況がなくもない。
めでたい式だから、あんまりがめつい話もしたくないし。お金の話しちゃうと責任も発生するし、そもそも払う気があるのかもわからないのにこっちから持ち出すのも嫌だし、ああもやもやするなあ、なんて。

「パソコン詳しい人が『パソコン直して(組んで)』と気軽に言われる」とか「絵を描けるひとが『メッセージボード描いて』と言われた」などと同じような問題を内包しているような気がします。他人のリソースを消費することへの無自覚さとか、スキルへのただ乗りとか、趣味だから無料で喜んでやってくれると思い込んでいる(場合がある)とか、そのへんの。



3.どう断るか、断り方を考えてみる

これをお読みの方がどんな状況かもわからないので、正直に言うのがいいのじゃないかなと思います。僕だったら、

「機材が室内向きじゃないし、うまく撮れるか自信がないんだ。大事なものだし、できれば写真はプロに頼んだほうがいいよ」

とか、

「できる範囲で撮ってあとでデータ渡すのは構わないけど、式中はちゃんと祝いたいし、テーブルあちこち回るのは難しいかな」

とか。
最近、友人に式中にテーブルを回って友人視点の写真を撮ってくれないか、と頼まれたのですが、依頼主たる友人は趣味でモデル撮影などもしているので、

「腕を買ってくれるのは嬉しいけど、機材が室内向けじゃないし、苦手なので、求められるレベルのものを出せる自信がない」

と正直に言いました。すまない、身の回りの写真は楽しく撮るからそれで勘弁しておくれ。




4.とはいえ、めでたいことだし。

これまであれこれと、最悪の想像をしながら「やらない理由」を並べ立ててきました。そんな僕はといえば、親戚や友人の結婚披露宴で、ちょろちょろと動き回って写真を撮っています。だって、それが僕の楽しみ方で、祝い方だったから。
ただ、僕は写真が上手いつもりはまったくないし、仕事で使っていたカメラも室内で人を撮るのとは正反対、野外での使用ばかり。苦手意識を持ちながら、機会を見つけて撮ってきました。

僕自身は「結婚披露宴で写真撮ってくれない?」と頼まれた経験、2,3回しかないんです。ただ、上記のような心配事は常に頭にあったので、条件付きで引き受けたり、お断りしたりしてきました。

まず、心からお祝いしたい気持ちがある。そのために僕の持っているカメラが役に立てるなら嬉しいし、力にもなりたい。だけど、大事なものだから、まずはプロにお願いすることを前提で話を進めてみて欲しい……そんなふうに考えています。




5.「安易に引き受けちゃいけない」との思いを強めたごく個人的な体験談

僕が上記のようなことを考えるに至った、体験談を書いておきます。僕の親戚の結婚披露宴でした。親戚は僕より年下の男で、当時付き合っていた彼女と晴れてゴールイン、派手めの披露宴を計画しているようでした。


「シゲ、俺の披露宴で写真撮ってくれない?」
親戚の集まりで、彼は僕に言いました。
「カメラは持ってくから撮るのは構わないけど、ちゃんとプロは頼んでるのか? そのうえで、身の回りとか俺ら方の親戚を撮るくらいならいいよ」
「いやあ、演出で結構金使っちゃってさ、でも式の写真はちゃんと、彼女の友達の写真が趣味の子に頼んであるからさ」
「うーん……披露宴の写真は難しいから、やっぱりそこはケチらないで頼んだほうがいいよ」
「考えとくわ。じゃあ、シゲには親戚一同の集合写真頼んでいい?」
「それくらいなら、なんとか」
最後に決めるのは自分たちだし、僕ができたのは「プロに頼めよ」と念を押すことまででした。

そして式当日。僕はカメラバッグに、外付けストロボをつけた一眼レフに広角ズームレンズを装着、替えの中望遠と三脚を持って会場に入りました。しかし待合室にもロビーにも、”写真係を引き受けたと思しき友人”の姿は見当たりません。どんな人だろうね、何のカメラかな……と妻と話していたそのとき、見つけたのです。オリンパスのマイクロフォーサーズカメラ、E-P1を首から提げた女の子を……!

僕は思わず妻と顔を見合わせました。カメラに罪はないけれど、今日この場を乗り切るのに、その装備ではあまりにも心もとない! だって見るからにカメラ女子なその子、

  • センサーサイズが小さいフォーサーズ機であるE-P1一台のみ(僕もフルサイズでないAPS-Cなので偉そうなことは言えないけど)
  • キットの標準ズームレンズのみ
  • 内部のポップアップストロボを上げて撮ってる
  • ちょっと見てるだけでも、自分の友人の写真ばかり撮ってる

だったんですもの。
新郎新婦が頼んでいる手前、あんまり出しゃばるのは良くないと思ったけれど、これではろくな式中写真が残らないのは目に見えています。保険の意味も込めて、僕が少し多めに撮っておこうかなという気になりました。
スリーピースのスーツの上を脱ぎ、ワイシャツにベストの状態でカメラを首から提げて、カメラマンコスプレ準備完了。その子ににこやかに「こんにちは! 僕もちょろちょろ撮るんでよろしくお願いしますね!」と挨拶をしておきました。

結局、式中動き通しでした。各テーブル回って、新郎新婦のご家族ご友人に挨拶しながらカメラを向けて、レンズを付け替えながら新婦のアップも撮って、友人たちが高砂に酒を注ぎにくるのを集合写真撮って……。
後日、新郎から「この前の写真、あの子のやつもらってきたよ」と例の女の子が撮ったのを見せてもらったのですが、予想通り自分と友人の写真ばかりで、新郎の親戚どころか新婦の親戚の写真もほとんどない有様でした。
そのさらに後日、新郎の母である親戚のおばちゃんから、「式は楽しかったけど、友達に頼んだっていう写真がちょっとね……シゲが撮ってくれたののほうがよかったよ」と言ってもらえたので、とりあえず”新郎の親戚が不満に思わない程度”のカバーはできたのかも。



6.だから僕は好きに撮ることにした

このお話は、写真をケチってプロに頼まず、”写真が趣味”の友人に頼んだことで起きた悲劇だったわけです。もちろん、新郎新婦の判断が間違っていたと言わざるを得ません。
一方で、自分の写真を撮るスキルをわきまえず、ホイホイ引き受けてしまうご友人もちょっとどうかと思ったりしたのでした。


ただし、この話を「悲劇を未然に防いだぜ!」と終わらせることができないのは、新郎新婦本人たちがどう思っていたのかがわからないことです。
僕個人としては、ピンボケ、露出過多、あまつさえ出席者の顔すら写っていない写真を披露宴の写真とは認められないし、がんばって準備して、晴れの舞台の記録がそんなものしかないのはかわいそうだな、と思います。

でも、きれいな写真を残したいというのは、あくまで僕の希望(この場合は新郎の母や周囲も)であって、新郎新婦が「別に写真はいらないよね」と思っていたのであれば、ご友人が撮った程度の写真でも全然問題なかったことになります。「披露宴の写真はプロを入れてきちんと残さねばならない」と思っていること自体が、既成概念に囚われた無駄なものなのかもしれません。僕も写真を撮ったことで新郎新婦に感謝はされましたが、彼らにとっては「どうせお金かけてない部分だし、撮ってもらってありがたいけど、写真の出来は別に気にしてない」のかもしれません。
それは、あくまで主役である新郎新婦の問題です。その価値観は、僕には否定しようのないものです。


あれこれと、最悪の想像を重ねながら書いてみましたけれど、僕は誰かに「リスクがあるから断ったほうがいい」とか「こんなに大変だから頼まないほうがいい」と言いたいのじゃありません。お祝い事ですし、大変でもそれがお祝いになるなら力になりたいし、気安い関係だったら写真が好きなご友人に頼んでみるのもいいと思います。
結局は「どこまで何を求めるか」という切り分け・線引きの問題なので、事前によく話し合うことで、上記の問題点やリスクはほとんどが回避可能だと思います。


ただ、僕はこの一件以降、友人親戚の結婚披露宴でカメラを取り出す機会が減りました。落ち着いて新郎新婦の晴れ姿を見て、たまにテーブルの友人なんかの写真を撮って、それを渡すくらいに留めています。上で書いた責任云々のことも依然頭にあるけれど、今までがカメラを通しすぎだったのかな、と少し反省しているからです。これは僕自身にとって、カメラという道具を生活の中でどう使うかという問題なのです。
それでも、新郎新婦のご両親が前に出てご挨拶などをするとき、新婦のご尊父を写真に撮って、うっかり泣いてしまうのは未だに変わりません。娘の結婚式のときは、自分がどういう表情になっているのか、想像せずにはいられないのです。



(20160222追記)
更新後、ブックマークコメント等で関連記事を教えていただきました。

どちらも未読でしたが、本エントリと似た内容も含まれています。

*1:フィルムで撮ってらっしゃる方がいるのは認識していますが、一応