「クマムシカフェ・イン・札幌」に せんにゅう!
去る2012年3月2日、北海道札幌市にてクマムシイベント「クマムシカフェ・イン・札幌」が開催されました。今回はクマムシカフェのリポートをお届けします(ご本人の許可を得て写真を撮影しています)。
なお、記念すべき第一回のクマムシ集会はパリで行われています。
→クマムシ集会・イン・パリ - クマムシ博士のむしブロ
★★★★★★★★★★★★
クマムシカフェ・イン・札幌の開催
【6:40 pm】
会社帰りに妻と落ち合い、クマムシカフェの会場に到着。冬至からしばらく経ったとは言うものの、この時期の札幌の日没時間は夕方5時頃である。すっかり日は落ち、店々の灯りが凍った路面を照らしている。会場となったCAFEサーハビーは札幌の繁華街「狸小路」からほど近く、週末で飲み屋を求めてうろつくサラリーマンも近くを行き交っている。あまりにお腹が空いたので近くのコンビニで肉まんをひとつ口に放り込み、店のドアを開けた。
薄暗い会場には既に十数人の参加者が椅子に座り、講演の始まりを今か今かと待ち望んでいるようであった。受付には名簿を持った女性と、参加者とは明らかに異なる雰囲気を纏った、言葉にするなら「私はクマムシのことを語るためにここに居るのです」という薄黄色のオーラを発するイケメンが座っていた。彼が堀川さんに違いない(……などと書いてはみたが、僕も堀川さんもWebで顔を出しているので、お互い面が割れているのだった)。僕は挨拶し、妻を紹介した。
(ところで、僕のweb活動を不本意ながら代表するエントリ「もし森ガールがゆるゆるファッションで実際に『森』へ入ったら」には、みやまちゃんという不自然なガールが登場する。以前、堀川さんのブログで女装芸で有名と紹介していただいた手前、礼儀としてみやまちゃん化して参加したほうがいいのかな、と思っていたのだが、ドアを開ける前に妻に止められ、断念していたのだった。せっかく会社にヅラを持っていったのに……と不満顔の僕だったが、会場に知人の顔を見つけ、止めといてよかったと感謝したことは公然の秘密である。)
【7:05 pm】
会場に用意された椅子は埋まりつつあった。いよいよクマムシカフェの開演である。
堀川さんのお話は、ご自分のこれまでの研究経歴を通して、クマムシの採集と観察や飼育の方法、苦労話、そして最大の特徴とも言える極限環境耐性についてのわかりやすい談義であった。
会場からは時折笑いが上がり、折に触れて質問が飛び、堀川さんがそれに受け答えしながら進む、とてもなごやかな雰囲気だった。
クマムシを採集観察する助手ガールについて解説。
ここで談義の内容を書いてしまうと、今後予定されているクマムシイベントの楽しみを削いでしまうことになるので詳しく語るのは止すけれど、個人的には
- クマムシの捕食行動
- クマムシの感覚器官
- クマムシの同定と種分類
あたりのお話が大変興味深かった。へー、つぶれると寄って来るんだー、へーへー。
堀川さんのブログで初めてクマムシを知った僕の妻も「雪が融けたらヨコヅナクマムシを探しに橋に行こう!」と興奮して言い出すほど。
堀川さんの経歴やクマムシのことなど、興味を持ったので知りたい、あるいは今後のクマムシイベントの予習をしたい、という方は、以下の記事を参照されるとよい。
「研究室」に行ってみた。パリ第5大学・フランス国立衛生医学研究所 堀川大樹
ナショナルジオグラフィック日本語版のwebサイト、小説家の川端裕人さんが堀川さんにインタビュー。川端さん(僕もファンです!)の語り口は、堀川さんのクマムシへの愛を見事に文章化されておいで。エッフェル塔をバックにクマムシ探しをする画が大変印象深い。
青春を深海に賭けて 第4話 JAMSTEC新人ポスドクびんびん物語 その1 緊急激論!“クマムシvs極限環境微生物”
微生物地球学者、高井研さんとの愛あふれる「極限生物プロレス」。もうタイトルからしておかしい。
3月7日(水)に開催が予定されている春だ!満開!クマムシ祭☆は既にチケットが売り切れてしまっているが、3月10日(土)に科学未来館で開催されるクマムシ博士のクマムシトークショー、および3月13日(火)にロフトプラスワンで予定されているクマムシナイトにはまだ空席があるとのことなので、お誘いあわせの上ぜひ参加することをオススメしたい。
【21:00 pm】
質疑応答コーナーが始まった。
クマムシぬいぐるみを手に説明。
「なんでクマムシ死んでしまうのん?」という素朴な疑問から、「20倍のルーペでクマムシを見たことあるんだけど…」という猛者による質問まで、活発な質疑応答が繰り広げられた。
こうして、拍手とともに「クマムシカフェ・イン・札幌」は終わりを告げたのである。
終了後、入れ替わり立ち代り参加者が堀川さんと言葉を交わしていた時のこと。
と、女性にしてはかなり身長の高い方が、女性にしてはやや低い声で「ホリカワさん、ファンなんです! 一緒に写真とってもらえませんか?」と駆け寄ってゆくのが見えた。僕はシャッターを頼まれたので応じたが、やや堀川さんの顔がひきつっていたように見えたのは気のせいだろうか。
「ノーメイクではずかしいですー」とか聞こえたし。
【10:05 pm】
会場を出た僕は、妻とお好み焼きをつっつく。
僕は理科が、とりわけ生物が好きな少年であったが、肉眼で見ることのできない小さな生き物や細胞のはたらき、遺伝子の話題などには昔から苦手意識を抱えていた。クマムシも体長0.05〜1mm、大変小さな生き物であるから、僕はこの生き物の話をどう聞けばいいのだろうと不安だったのだが、堀川さんの口から語られるクマムシは、生まれ、食べ、育ち、食べ、乾き、水を吸って膨らみ、卵を産んで……というひとつのサイクルを持つ「生物」だった。当たり前と言えば当たり前なのけれど、「僕の苦手意識はその対象ときちんと向き合っていないことの言い訳だったのだ」と目からウロコの落ちる思いだった。
ちなみに、僕が初めてクマムシを知ったのは小学生の頃、あさりよしとお「まんがサイエンス」に登場したからだった。
- 作者: あさりよしとお
- 出版社/メーカー: 学習研究社
- 発売日: 2004/02/01
- メディア: 単行本
- クリック: 8回
- この商品を含むブログを見る
★★★★★★★★★★★★
クマムシカフェ・イン・札幌(二次会)
【11:30 am】
翌日、堀川さんと食事をする機会に恵まれた。
二次会というかオフ会というかよくわからない感じではあるが、お寿司を食べに行ったのである。
残念ながらクマムシぬいぐるみは不参加。
こちらのお寿司屋さんは札幌駅からも近く、ランチ営業もしているので旅行・出張の際にもオススメ。おいしかった。
- ジャンル:寿司
- 住所: 札幌市中央区北二条西3 敷島ビル B1F
- このお店を含むブログを見る |
- (写真提供:Koji-koji)
学生の頃の思い出とか、海外生活のギャップとか、北海道の食べ物とか、いろいろなことについて話したのだけれど、たびたび話題に出たのは「対象を意識した情報発信」についてだった。自分の研究対象に興味をもってもらうにはどうしたらいいか、普段クマムシなんて気にもかけない層に「おっ?」と思ってもらうにはどうしたらいいか、どういうツールを使うべきか、発信する側の傲慢さはないか……。そういう、ある種のコミュニケーションについての話をした。
サイエンスコミュニケーションという言葉を通じて、科学や世界とどう付き合っていったらいいのだろうか? 研究者として、市井の生き物好きブロガーとして果たすことができる役割とはなんだろうか? ゆるキャラ「クマムシさん」やみやまちゃんの見る未来は?
示唆に富んだお話をたくさん聞かせていただいた。
ありがとうございました!