紺色のひと

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ネコミチとまったく似ていない猫のはなし

会社帰りの深夜、道端で野良猫を見つけた。蟲使いみたいな声を出しながらそいつに近づいてゆくと、その白いのはひと声だけ鳴いて僕の右手に擦り寄ってきた。ネコミチはこれ好きだったっけなと思いながら後ろ足の付け根あたりをぐりぐりとしてやると、腹ばいになってパンチと甘噛みをやり返された。しばらく遊んでから歩き出すと、すねこすりのように僕の足元についてきて、時折離れては排水溝のコンクリの裂け目に前足を突っ込んではまた足元に、と繰り返した。大きな道路を渡らなければならなかったので、僕は道端のブロックの上に腰掛けて、あやすのをよした。白いのはしばらく僕の周りの土を嗅ぎまわって、元いた家の軒先のほうへと戻っていった。
ため息をついた。こういう時間を持たなくなったのは、ただ僕を待っているひとがいるからだ。寄り道もしなくなった。そういう変化は自覚しつつあるけれど、ネコミチのこととか、彼を思い出して二匹の子猫のことを考えたり、子猫の飼い主の友人のことを考えたり、いろんなことから昔3年間だけ暮らした町のことを頭に浮かべるのは変わらない。ネコミチはいつも、まゆを釣り上げたようなふてぶてしい顔をしていた。
恋人はまだ帰ってこない。淋しいのだと思う。