紺色のひと

思考整理とか表現とか環境について、自分のために考える。サイドバー「このブログについて」をご参照ください

サケ科魚類オタが非オタの彼女に国産サケを軽く紹介するための10種

元エントリ「アニオタが非オタの彼女にアニメ世界を軽く紹介するための10本」から遅れること約2ヶ月。自分が淡水魚類オタかというと正直自信がありません。膨大な種数を誇るコイ科・ハゼ科の大部分が、僕の生息分布域とブラキストン線によって隔たれているからです。琵琶湖をフィールドにしている研究者さんなんかはすごいよねぇ、と思います。
ということで、淡水魚オタというよりサケ科魚類オタとして書きました。レッツゴー。


まあ、どのくらいの数のサケ科魚類オタがそういう彼女をゲットできるかは別にして、「オタではまったくないんだが、しかし自分のオタ趣味を肯定的に黙認してくれて、その上で全く知らないサケの世界とはなんなのか、ちょっとだけ好奇心持ってる」ような、ヲタの都合のいい妄想の中に出てきそうな彼女に、サケのことを紹介するために知っておくべき10種を選んでみたいのだけれど。
(要は「さけます情報(独立行政法人さけますセンター)」の正反対版だな。彼女にサケ科魚類を布教するのではなく、相互のコミュニケーションの入口として)
あくまで「入口」なので、時間的・金銭的に過大な負担を伴う外国産のサケは避けたい(念の為言及しておくと、この後にも『サケをサケる』のような言葉が続くが断じて洒落ではない*1)。
できれば国産サケ、あるいは外国産でも国内で流通しているものにとどめたい。
あと、いくらサケ的に基礎といっても古びを感じすぎるもの、というか絶滅してしまった種は避けたい。海獣類好きが「ステラーダイカイギュウ」は外せないと言っても、それはちょっとさすがになあ、と思う。そういう感じ。
彼女の設定は

サケはいわゆる「ルイベ」的なものを除けば塩鮭や鮭とばくらいは食べている
母線回帰性は低いが、頭はけっこう良いメガネっ娘

という条件で。



まずはおれ的に。出した順番は実質的には意味がない。

サケ(シロザケ) Oncorhynchus keta

まあ、いきなりここかよとも思うけれど、「カムバック・サーモン運動以前」を濃縮しきっていて、「カムバック・サーモン運動以後」を決定づけたという点では外せないんだよなあ。体長も降海型サケとしては平均的だし。
ただ、ここでオタトーク全開にしてしまうと、彼女との関係が崩れるかも。
この、研究され尽くした故に情報過多な種について、どれだけさらりと、嫌味にならず濃すぎず、シロザケの持つ漁業資源としての価値と環境保全のシンボル的存在となったことを、さらに高級食材として名高いケイジやトキシラズなどについて、回遊年数の差という必要最小限の情報を彼女に伝えられるかということは、オタ側の「真のコミュニケーション能力」の試験としてはいいタスクだろうと思う。


サクラマス Oncorhynchus masou masou
ヤマメ Oncorhynchus masou masou

「ヤマメはサクラマスの陸封型」って典型的な「オタクが考える一般人に受け入れられそうなサケ知識(そうオタクが思い込んでいるだけ。実際は全然受け入れられない)」そのものという意見には半分賛成・半分反対なのだけれど、それを彼女にぶつけて確かめてみるには一番よさそうな種なんじゃないのかな。
「サケオタとしては、恐らくサケに次いで最も知名度の高いであろうヤマメが、降海型と陸封型の二つのタイプを持っていることを“基礎知識”としていいと思うんだけど、率直に言ってどう?」って。
アマゴとの交雑まで踏み込むといっぺんに引かれてしまう危険性もある。


ベニザケ(ヒメマス)Oncorhynchus nerka nerka
ある種の魚オタが持っている源自然への遡上という憧憬と、あるいはグルメオタという視点から、サケ科内で最も美味と賞されるその味へのこだわりを彼女に紹介するという意味ではいいなと思うのと、それに加えていかにも野田知佑的な

  • 「NHKの自然番組に代表される、いかにも源自然の中のサケとしてアラスカの川を遡る真っ赤な魚体」を体現するベニザケ
  • 「阿寒湖から各地に持ち込まれ、暗い湖の中で釣られる日を待っている銀鱗」を体現するヒメマス

のふたつの対比をはじめとして、オタ好きのする生活形態をちりばめているのが、紹介してみたい理由。


ミヤベイワナ Salvelinus malma miyabei
たぶんこれを見た彼女は「オショロコマだよね」と言ってくれるかもしれないが、そこが狙いといえば狙い*2
北海道の然別湖水系の他でこの系統の種がその後発見されていないこと、別の水系に持ち込まれた本種の形態は数十年というスパンでは鰓耙数に変化が見られないこと、アメリカなら同様の事例はおそらく星の数ほどありそうだけれど、日本では狭い国土故に着目された事例なのかもしれないこと、なんかを非オタ彼女と話してみたいかな、という妄想的願望。


ニジマス Oncorhynchus mykiss
「やっぱり管理釣り場は子供のためのものだよね」という話になったときに、そこで選ぶのはブラウントラウトでもいいのだけれど、そこでこっちを選んだのは、この種にかける養殖業者の思いが好きだから。
断腸の思いで交配に交配を重ねてのドナルドソン、っていう品種改良が、どうしてもおれの心をつかんでしまうのは、その「もっとたくさんの肉を食べる」ということへの諦めきれなさがいかにもオタ的だなあと思えてしまうから。
ニジマスの体高の高さを俺自身はデブとは思わないし、むしろ擬人化したら巨乳と扱われていいものだろうとは思うけれど、一方でこれが萌え絵になったらきっちり「外人」「巨乳」「肉便器」という記号を与えられてしまうだろうとも思う。
なのに、各所に頭下げて品種改良して巨大な魚体を作ってしまう、というあたり、どうしても「『自分の食べるものは自分で創る』というズレた自給自足を捨てられないエコロジーオタク」としては、たとえニジマスがそういうキャラでなかったとしても、親近感を禁じ得ない。味自体の高評価と合わせて、そんなことを彼女に話してみたい。


イトウ Hucho perryi
今の若年層でイトウ見たことのある人はそんなにいないと思うのだけれど、だから紹介してみたい。
国内サケ中唯一の絶滅種であるクニマスよりも後の段階になってやっと、国産魚類の絶滅危惧種について警鐘が鳴らされたとも言えて、こういう「サケ科のくせに流水より湿地性」の生息形態である種がこの時代に未だ生息しているんだよ、というのは、別におれ自身がなんらそこに貢献してなくとも、なんとなく貴重種好きとしては不思議に誇らしいし、いわゆるレッドデータブックでしかイトウを知らない彼女には見せてあげたいなと思う。


カラフトマス Oncorhynchus gorbuscha
カラフトマスの「セッパリ」あるいは「鼻曲がり」に代表されるバランスの悪い造形をオタとして教えたい、というお節介焼きから見せる、ということではなくて。
「終わらない進化の道筋を毎日生きる」的な感覚がオタには共通してあるのかなということを感じていて、だからこそ母線回帰を行うような変わった生活形態を持つサケ科の最新分岐はカラフトマス以外ではあり得なかったとも思う。
「進化しながら日常を生きる」というオタの感覚が今日さらに強まっているとするなら、その「オタクの気分」の源は嗅覚仮説にあったんじゃないか、という、そんな理屈はかけらも口にせずに、単純に楽しんでもらえるかどうかを見てみたい。


アユ Plecoglossus altivelis altivelis
これは地雷だよなあ。地雷が火を噴くか否か、そこのスリルを味わってみたいなあ。
こういう「あぶらびれはあるけどサケ目じゃない」風味の魚類を鵜飼というかたちで観光資源化して、それが非オタに受け入れられるか、あるいは「私も長良川で火振り漁やってみたい」と触発されるか、というのを見てみたい。


涼宮イワナの憂鬱 Salvelinus leucomaenis sp.

9種まではあっさり決まったんだけど10種目は空白でもいいかな、などと思いつつ、便宜的にイワナ類を選んだ。
サケから始まってイワナで終わるのもそれなりに収まりはいいだろうし、石城謙吉以降の淡水サケ科魚類分類の先駆けとなった種でもあるし、アメマスからニッコウイワナ、ゴギまでよりどりみどりで紹介する価値はあるのだろうけど、もっと他にいい種がありそうな気もする。
というわけで、おれのこういう意図にそって、もっといい10種目はこんなのどうよ、というのがあったら教えてください。

元ネタ:
アニオタが非オタの彼女にアニメ世界を軽く紹介するための10本
生物オタが非オタの彼女に分子生物学の世界を軽く紹介するのための10タンパク - ミームの死骸を待ちながら
http://d.hatena.ne.jp/terracao/20080802/1217657208
また本文中の画像は日本のサケ科魚類|水産総合研究センター「北海道区水産研究所」を参照させて頂いています。

9月19日追記
ブックマーコメントでご指摘頂きました。僕はアユをサケ目キュウリウオ科の魚だと記憶していたのですが、どうも情報が古いようで、キュウリウオ目の分類だそうです。ありがとうございました。
でも、「国内産」「サケ科」の条件を満たしているとはいえシナノユキマスは地雷すぎます。ごめんなさい。

*1:言及するのがオタくさいかしら、と思って追記してみた。

*2:両種は亜種レベルでの差しかなく、外見では判断がつかない。解剖してエラのひだひだ(鰓耙)の数を数えることで同定が可能である。