紺色のひと

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熊森協会が『どんぐり運び』を真っ向から否定していた件

本ブログでは、”実践自然保護団体 日本熊森協会”に対し、その活動、特に「どんぐり運び」に代表される野生動物の関わり方に問題が大きいと感じ、指摘・批判を行ってきました。先日4月8日にアップされた協会公式ブログにて、非常に興味深い記述がありましたので、僕の感じたことを書いてみます。

気になった記述とは

僕が読んだのはこちらの記事です。
「狩りガール」を持ち上げるテレビ番組に苦言−くまもりNEWS


関西ローカルのテレビ番組で「狩りガール」が取り上げられたことを受け、熊森協会の狩猟に対する考え方などを書き連ねた記事になっています。いつもの協会ブログと同様、「ハンターへの嫌悪感」「古く美しい日本観」「研究者・行政による陰謀」などの偏った考え方が感じられ、読むのに体力を必要とする内容でした。
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この記事中で述べられている、熊森協会が考える狩猟についての記述に、非常に興味深いものがありました。
こちらです。

狩猟行為は、山奥にはりめぐらされた林道、車や銃、犬があれば、女でもできるかもしれませんが、狩猟の後始末は、女性には一般的にむずかしいと思います。殺したシカやイノシシは、山に埋めるか、焼却場へ持って行くかしなければなりません。山中に放置すれば、クマを初めとする多くの野生鳥獣の餌となり、ますます山の生態系が狂ってしまいます。しかし、若い女性に、重いシカやイノシシを運ぶことなど、普通は無理です。
(強調はアサイによる)

狩猟による残渣が山中に放置される例は実際にあり、これを問題視するものです。北海道で問題となっている大型ワシ類の鉛中毒も、この狩猟残渣の放置がひとつの原因であり、対策を講じていかなければいけないことでしょう。「狩猟残渣が野生動物の餌となる」ことの問題は実際に発生しているため、この記述そのものにおかしなことはありません(「若い女性にはシカやイノシシの処理なんて無理」という思い込みに基づく記述はともかくとして、ですが)。

しかし僕がおかしいなと思ったのは、この記述が熊森協会が行っていた活動と大きく矛盾するからです。
それは「どんぐり運び」活動です。


熊森協会による「山への餌運び活動」をみてみる

矛盾点の指摘の前に、これまで協会が行ってきたどんぐり運び活動を振り返ってみましょう。

どんぐり運び

協会の定義するどんぐり運びとは、

豊かな森を再生させるまでの間、山の実りの凶作年に都会のどんぐりを拾い、山間地の地元の方々と協力して食糧が無くて人里に出てこざるをえないクマをはじめとする山の動物たちに届け、人間のところに出てこないようにすることです。
どんぐり運びについて−日本熊森協会
(強調はアサイによる)

というものです。
この活動は効果が実際に検証されておらず、また野生動物に餌を与えることそのものが引き起こす問題が予見されるため、以前から研究者や自然に親しむ方々から批判されてきました(例:ツキノワグマのために各地で集めたドングリを山奥に蒔く活動に関する見解−日本クマネットワーク)。
一方、「おなかをすかせたクマさんに餌を届けてあげよう」というストーリーは都会の人々に分かりやすく浸透し、メディアに大々的に取り上げられるなど、協会の代表的な活動として認知されていると言ってもいいと思われます。
議論を呼ぶ内容であったため、wikipedia−日本熊森協会でも「どんぐり運び」項目について取り上げられ、批判や協会からの再反論についてまとめられています。


2010年11月には、富山県の山林にどんぐりをヘリで空輸したと報道され、ご記憶の方もいらっしゃるのではないでしょうか。


また、群馬県で同様にどんぐり運びをした事例が、NHKの道徳番組の材料として取り上げられたこともあります。
http://www.nhk.or.jp/doutoku/documentary/index_2011_015.html
君ならどうする?人を守るため処分される命 - Togetterまとめ


カキ運び

またここ1,2年では、集落付近のカキの実をもぎ、それを山奥に運ぶという活動も行っています。
集落で放置されるカキの実を除去したり、カキを伐採して集落にクマを寄り付かせないようにする、という活動は熊森協会以外でも行なわれており、ごく真っ当な獣害対策手段ではあるのですが、熊森協会さんでは独自性を出し、「もいだカキを山に運ぶ」という活動を行なっています。

枝についている柿の実を取る人。取った柿の実は、袋に入れて、山に運びます。
クマも人も守りたい くまもり柿もぎ隊の知恵

人家から離れた人工林内。ここで食べてください。裏山の、クマたちの通り道に運びました。緊急避難措置です。
クマも人も守りたい くまもり柿もぎ隊の知恵


(写真は同記事より引用)

地上に落とした枝についているたくさんの柿の実を、明日、ボランティアの皆さんに来てもらって、もいで山に持っていこうと思います。
他にも同様の活動を行っているグループがありますが、もいだ柿の実を、人がジャムにしたり持って帰ったりします。山奥に持って行って、動物たちにあげるという処理法は、クマたちとの共存をめざしている熊森独自のものです。
クマが来ないように、人家近くの美濃柿の巨木を強度剪定しました <現地活動>

誰が食べたのか。仕掛けていた自動カメラをチェックしてみました。
いろんな動物が食べに来ていました。タヌキ、アナグマ、シカ、キツネ・・・そうして、4日目にクマ!
「熊森の”柿もぎと山運び”のおかげで、クマが出なくなりました。山になら、柿を植えてやっていいよ」と、地元から感謝の声


(写真は同記事より引用)


その他の食べ物

また、「キャベツを運んで与えてあげる」「廃棄する果樹を与えてあげる」などの主張もみられ、基本的な考え方は変わらないようです。

今、キャベツが暴落して、大量に出荷停止になってしまっているそうです。人間の所には食べ物がいっぱいあるのです。キャベツはクマの好物ですから、廃棄するキャベツがあるのなら、せめて、絶滅危惧種の動物にだけでも分け与えるべきでしょう。
兵庫県発表7月クマ目撃数過去最多→くまもり本部クマ生息地の山の実り調査・集落での聞き取りに出動?クマ捕殺への疑問と抗議

果樹園に来たクマたちを殺す前に、果樹園を電気柵などで防除して、果樹園には廃棄処分する落ち果樹がたくさんあるのですから、それを外に出して与えてあげるといいと思います。
兵庫県発表7月クマ目撃数過去最多→くまもり本部クマ生息地の山の実り調査・集落での聞き取りに出動?クマ捕殺への疑問と抗議


一方で、畑のスイカがクマを誘引している、とごくまともな指摘をしてみたり、なんだかよくわかりません。

指摘3 谷に捨てられた売れないスイカが、クマを誘引している。
のような状態で、クマを即、有害駆除してしまうなどあんまりです。非会員の方たちが、畑の持ち主に、「クマを誘引しないように、廃棄スイカは土に埋めてほしい。電気柵はクマに有効なので、防除努力をまずしてほしい」とお願いしてくださったところ、畑の持ち主さんは了解して下さったそうです。
7/23、24 東北で進む安易なクマ駆除の実態を視察して唖然?

ただ、こちらは非会員の方の主張だそうなので、やはり協会としては「餌を運んで与えることで問題が解決する」と考えていると言っていいようにも思います。


一体どういうことなんだ…


これら餌運び活動との矛盾点、僕の考え

さて、改めて冒頭の記事をみてみましょう。

狩猟行為は、山奥にはりめぐらされた林道、車や銃、犬があれば、女でもできるかもしれませんが、狩猟の後始末は、女性には一般的にむずかしいと思います。殺したシカやイノシシは、山に埋めるか、焼却場へ持って行くかしなければなりません。山中に放置すれば、クマを初めとする多くの野生鳥獣の餌となり、ますます山の生態系が狂ってしまいます。しかし、若い女性に、重いシカやイノシシを運ぶことなど、普通は無理です。
「狩りガール」を持ち上げるテレビ番組に苦言
(強調はアサイによる)

山中に放置するのが肉か植物かの違いはあれど、「(餌となるものを)山中に放置すれば、多くの野生鳥獣の餌となり、山の生態系が狂ってしまう」というのは、どんぐり運び、カキ運びを否定する文言ですよね。
過去にあれだけ熱心に取り組んで、全国に「どんぐりを送ってください!」と呼びかけをして、テレビ取材を呼んで、今もなお秋になると「どんぐりを送ろう」という声が聞かれるような活動を、自ら否定しているわけです。


もちろん、これは歓迎すべき流れだと考えます。
僕は、熊森協会の活動やその根底に流れる自然観に非常に強い不信感を抱いていますが、大組織のマンパワーによる自然保護活動の必要性も強く感じています。まともな活動をしてくれるのなら、それに越したことはないと考えます。
今回の記述が、これまでのどんぐり運び活動に対する認識を改めた表れだといいな、と思っています。もしそうだったら、「もうどんぐり運びはやりません」「今までの活動が間違っていました」と公に主張するくらいのことはすべきだ、とも思っています。


実際、上記で紹介した「どんぐり運びについて」の記述は、熊森協会の公式webページから削除され、読めない状態にあります。2013年の秋には「今年は集めていません」とアナウンスしていたことから、この時点では活動を行う意思があったと読み取れます。果たして今年はどうなるのでしょうか。岐阜県支部ではwebページの活動として謳っていることもあり、まだ各地で続きそうではありますが、餌運び中にクマに襲われました、なんて痛ましい事故が起こる可能性は充分にあるわけで、効果の面からも、実際に活動される方の危険性の面からも、見直してもらいたいなと思っています。



おまけ〜シカがキツネに襲われる!?

この記事の本題ではありませんが、今回紹介した協会ブログでは、他にも大変おかしな点があります。

シカに関する対策手法について述べた部分では、

動物用防除柵を作ったり、奥山の針葉樹一辺倒の人工林を広葉樹林に戻して生息地を復元したり、シカに関しては、人間が彼らから奪った草原や湿原を返してやったり、シカが増え過ぎないようにシカ用避妊薬を開発したり、シカの天敵であるヤマイヌやキツネなどを放して、人間が壊した生態系のバランスを自然の力で取り戻したりして、人間は、あくまで生命尊重思想の上に立って、非補殺対応をめざすべきです。
「狩りガール」を持ち上げるテレビ番組に苦言
(強調はアサイによる)


え? オオカミを放すの!?
「ヤマイヌ」とは、ニホンオオカミのこと、あるいは野生化したイヌのことを指す言葉です。ここではオオカミのことを指すと考えていいと思いますが、熊森協会の主張としては、シカ対策としてのオオカミ放獣には強く反対していたはずです。


また、上記の部分だけでも、以下のようなツッコミが浮かび、知識的にも、またこれまでの熊森協会としても、ブレブレな主張だと言えるでしょう。

  • いやいや、キツネがシカの天敵なわけないでしょう(もしかしたらキタキツネがエゾシカの肉を食べ過ぎてメタボになったという記事の印象があったのかもしれませんが)
  • 熊森協会さんの言う『生命尊重』『非捕殺対応』というのは「人間がシカ対策のために他の生き物を導入して殺させること」なの?
  • 自分が手を下さないなら別の動物に殺させても問題ないってことなのか


どんぐり運びに関する本ブログの記事


絵本「どんぐりかいぎ」で学ぶ熊森ドングリ運びの問題点(10/11/27)
かがくのとも絵本「どんぐりかいぎ」を読み解き、種子の繁殖戦略からドングリ運びの問題点を指摘するとともに、代案の必要性について考えました。

「どんぐりかいぎ」では、ドングリが凶作の年には、何らかの理由で増えすぎた動物たち――リスやネズミ、それにクマ――を少し減らし、適正な個体数に戻す役割がある…とされていました。そこにドングリをまいてしまうとどうなるでしょう?
ドングリ運びは森全体にとって「余計なお世話」であると言えるのです。
自然保護や環境保全を考えるにあたっては、その場で死にそうになっている命を救うことよりも、その命が継続的に生きていけるための環境そのものを守ることを考える必要があります。「緊急」「お腹をすかせたクマ」「かわいそう」などの言葉に惑わされ、ひとつの命を救うことにこだわりすぎると、そのせいで失われるたくさんのものが見えなくなってしまうのです。

熊森関東支部の「春にもドングリをまく」案に反対します(10/12/13)
熊森関東支部の春にもドングリをまく・天皇陛下に手紙を書いてクマを天然記念物指定にしたいとの活動計画に対して、改めてドングリ運びの問題点を指摘しました。

仮に、秋に大量に集めたドングリを腐らせず、病原菌を発生させずに保存し、今秋のように山に運ぶことができたとしましょう。春先の山のあちこちに、10キロ20キロのドングリの山ができることになります。凶作だったはずの翌年に、芽も根も出さず大量に積まれたドングリ……。これが不自然でなくてなんでしょうか? 本来であれば山菜や若芽を食べる時期のはずですが、随分と食べ応えのありそうなドングリがそこかしこに山積みに。
この活動はクマにペットフードをあげて「お腹が一杯になったね、よかったね」と自己満足しているだけのものだと言いたいのです。それで、この後クマはどうなるのですか? あるはずのなかったドングリを探し求めるのですか? そうしたらまたドングリを運ぶのですか?
……いつまでそんなことを続けるつもりですか? クマはあなた方のペットではありません。自立して生きる野生動物なのですよ。