紺色のひと

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時には惚気の話を

会社から出て恋人に電話をすると、今あなたの部屋にいるよ、と言われた。最寄駅の階段を上がると彼女が立っていた。あれほど雨から雪になったと言ったのに傘を持って待っていた。手を繋いで僕のアパートまで歩く途中、もう20メートルというところで彼女がひとりで走り出した。かちゃかちゃと音がしたのであぁ、と思ってゆっくりと歩いて部屋のドアを開けると、曇ったメガネの向こうで彼女が確かに笑っていて、ご飯とお風呂の用意ができている旨を定型文で僕に伝えた。部屋着に着替えて待っているとご飯が出てきて、僕は感激のあまり本当に泣きそうになって、写真撮らなきゃ、とごまかしてシャッターを切った。そしてビールを飲んだ。
僕のために誰かが待っていてくれて、ご飯を作ってくれて、おいしいと言うと喜んでくれる。うっかり現実から転げ落ちそうになって恋人の顔を見たら、よほど頬が緩んでいたのか、なぁに、と微笑み返された。ノックアウト。
誰かにこうして欲しかったのだ、と気づいていた。自分が抱いていたかすかな望みが、こうもあっさり叶ってしまうなんて、このひとはすごい。好きだと思った。