もし森ガールがゆるゆるファッションで実際に『森』へ入ったら
森ガール――”森にいそうなファッションの女の子”――というmixi発祥の言葉が市民権を得て久しいです。クマさんリスさん妖精さんらに囲まれて、やわらかな木漏れ日の中でまったりと時間を過ごすイメージなのでしょう。しかし山男や森ボーイ、そして野外活動を好む女性の皆様におかれましては、そんな風潮にどこかモヤモヤした感情を隠せなかったことと思います。そう、森はそんなに甘くない、と。
ということで、森ガールが(正確には森ガールっぽく女装した森ボーイが)ふわふわファッションで森に入るとどういうことになるのか、実際に試してみました。
まず、森ガールとは
「森ガール」とは文化系女子のライフ・ファッションスタイルのひとつです。森ガールの定義は多々ありますが、代表的なものを森ガール雑誌より引用します。
- ゆるい感じのワンピースがすき
- パフスリーブにきゅんとする
- ラウンドトゥが好き
- 友達に「森にいそうだね」と言われたことがある
別冊 spoon. (スプーン) 2009年 03月号 [雑誌]
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2009/02/14
- メディア: 雑誌
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しかし、森ガールが実際に「森にいそう」かというと疑問が残ります。森はかわいらしい動物や妖精さんたちの住処であるだけでなく、彼ら生きものの生活の場で、厳しい自然そのものです。生半可な格好で入ろうものなら、森はガールに鋭い牙を剥くでしょう。
そもそもこんな恰好で森に入ろうなんて、お前ら森ナメてんだろ? そうなんだろ? 森と言えば妖精さんとかクマさんキツネさんがキャッキャウフフしてると思ってんだろ? 刺された痛さでハチとカとアブの区別つかないんだろ? 蒸れる雨具の下の肌着の重さとか、顔面に突如貼り付く水滴つきのクモの巣とか想像だにしたことないんだろ? わーきれいなお花!とか言ってツタウルシでも掴んでしまえよ! 手斧で間伐やって出直してこい! ついでに裾のレースもナワシロイチゴに引っ掛けて来い!
われは森の子、森ボーイ−紺色のひと
なんて考えるひとが出てくるのも不思議はありません。果たしてその憤りは正しいのか? 本当に森ガールは森をナメてるのか? 検証すべく、僕は女装道具一式をひっさげ、飛行機で北海道から東北地方のとある森へと向かいました。
森ガールに扮していざ森へ
便宜的に、彼女を深山(みやま)ちゃんと呼ぶことにします。みやまちゃんの今日のファッションはというと……
生成りのワンピースと花柄のスカートを中心に、大きいモチーフのペンダントやかごバッグ、カギのアクセサリーなど、かわいらしいものをふんだんに使ってまとめていますね。「かごバッグは手芸屋さんでレースのテープを買ってきて手作りしました☆」とのことです。
「はやくおおきくなあれって、そう言ってるみたいに聞こえます」 そうですか。
「木の陰のかくれんぼは、森ガールのたしなみのひとつです!」 そうですか。
木漏れ日の中での森林浴、みやまちゃんも気持ちよさそうですね。
ナタをたいけん!
それではいざ、森の中で体を動かしてみましょう。代表的な山仕事と言えば林業ですが、今回は森ガールの原点に立ち返り本質を見極めるという意味で、みやまちゃんにはより原始的な開墾作業を体験してもらうことにしました。
「じゅんび、かんりょうです!」 おお、お気に入りのかごバッグからナタが覗いています。
みやまちゃん、やるき満々ですね! ところでかわいい軍手をしてますが、ナタは柄が木製なので、滑らないよう素手で扱うのが望ましいですよ。
それでは、とりあえずやってもらいましょう。
「うおぉおおおぉぉ!!!」 なんだかやけに男性的な掛け声が聞こえますが気のせいですよね。
「わー、つるがからまっちゃいます」 そうでしょう、林縁部は日当たりがいいので、クズのようなツル性植物が繁茂しやすいんですね。これをマント群落と呼びます。
気づいたようです。「あれっ、わたしのスカートが…」怖い怖い怖い。
「もういいです、ちょっときゅうけいします」 そう言ってみやまちゃんが歩き出しましたが、
あっ、沢に……!
みやまちゃん! だ、大丈夫ですか?
「体じゅうちくちくします…」 よく見ると、斜面にイラクサが生えてますね…。やっぱり肌が出た状態であちこち歩くのは危ないですね。
チェーンソーをたいけん!
気を取り直して、太い木を切り倒す必須アイテム、チェーンソーに挑戦してもらいました。 「何年くらい生きてるんだろう…」この太さ、成長速度が早い木であることを考えると、おそらく10年くらいですね。今日倒してもらうのは「ヌルデ」という広葉樹で、荒地に率先して生えてくる”先駆種”と呼ばれる種類です。樹液に触るとかぶれるから気をつけてくださいね。
おともだちの森ガイ先生に使い方を教えてもらって、いざスタートです。
ヴィーン! と音がして回転する刃が幹を切ってゆきます。「いたいいたい、足になにかあたります!」 木屑が生足に当たっているんですね。普通は長ズボンを履きますから。大変危険ですので、よいガールの皆さんは、くれぐれも生足でチェーンソーを振るわないでください。
「やった、たおれました!」 さすが文明の利器、ナタなんかとはスピードが違います。
頑張って自分で除けてください。こんなことがないように、木を倒すときは、周りにひとがいないか確認するのはもちろん、倒す方向にも気を遣ってくださいね。
「はーい…いっせーのっ、せっ!」 みやまちゃん、大分パワフルになってきましたね。
森から出てきて
さてさて、一日森で遊んでみて、みやまちゃんがどうなったかというと、
かごバッグのコサージュがどこかに飛んでいってしまって、膝は泥だらけになって、
肘も真っ黒になって、レースにはあちこち木の葉や枝が引っかかって、
「もう森には来たくないです…」
うーん、そんなこと言わないで遊びに来て欲しいけれど、森に来るときにはそれなりの服装を心がけるようにしましょうね。
ちなみに今日みやまちゃんが入った森は、森ガイさん達の努力でこんなに開墾が進みました。森ガイさんのおともだちが、そのうちここで牛を飼うそうです。
おまけ:正しい森ガールファッション
「じゃあどういう格好すればいいの?」と森ガールの皆さんは仰るかも知れませんね。ではどういう格好なら大丈夫かというと、こんな感じならオッケーです。
基本的には夏でも肌を出さず、虫や草の葉などから肌を守ることが大切です。黒いシャツはハチが寄ってくると言われており、避けたほうがよいでしょう。みやまちゃんもこれに懲りず、また森に遊びに来てくださいね。
謝辞
最後になりましたが、本エントリの作成に際し、ロケ地の提供および紹介、現地への移動、技術および小道具の提供など、体調不良にも関わらず惜しみなく協力してくれた森ガイこと友人A氏、エントリの趣旨に共感するばかりでなく撮影現場を絶えず盛り上げてくれた真の森ガール・O女史、そして服選び・化粧・撮影など多岐に渡り全面的に協力してくれた妻に心より感謝申し上げます。
追記
森ガールにとっての森とはなにか、そしてなぜ森ガールに違和感を覚えるのか? 日本人の森観と絡めて考えてみた補足エントリ森ガールにとっての『森』を考える〜「もし森」補足として - 紺色のひとを書きました。みやまちゃんのポロリ(没写真)もあるよ!
「もし森」への反応で僕が得た印象をまとめると、次の2点です。
- 「日本語的森」と「森ガール的森」にはイメージ・実像ともに大きな差があるが、『森』という語の共通項から(特に日本語的森のイメージを抱くひとからの)齟齬が生じている。
- ファッションとしての「森ガール」が独り歩きするあまり、本来森に入るための服装ではない森ガールに対し、(日本語的)森に不適との指摘が入ってしまっている。
僕は森ガールが好きなんです。今もムーミンシリーズを読み返す愛読者ですし、森に対する明るいイメージや独特の雰囲気を好み、それをファッションに昇華させているのは本当に素晴らしいと思います。そして同時に、日本語的森も大好きなんです。民話の類や土地土地の言い伝えからみる森の怪しさや森に対する敬意、立ち入ると厳しく、また爽やかな面を見せる日本の森が大好きなんです。「もし森」では敢えて対立構造として両者を扱いましたが、それはどちらも好きだから、両者の間に生じているギャップが目に付いて、ツッコミを入れてみたくなったから――で、森ガールを蔑んだりする意図はまったくないんです。
追記その3
なんと、みやまちゃんが中国の日本文化を紹介する雑誌『知日』森ガール特集号で紹介されました!
『もし森ガールが…』が中国の雑誌『知日』で紹介されました! - 紺色のひと