紺色のひと

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人気科学漫画『サバイバル』シリーズでEMが紹介されている件(追記あり)

小学生に人気の科学学習漫画「サバイバル」シリーズをご存知でしょうか? 韓国発のこの漫画、各国語に翻訳され、日本でも累計50万部が出版されているそうです。このシリーズのひとつ「新型ウイルスのサバイバル」で、ニセ科学的な思想が含まれている「EM」が好意的に紹介されているようです。子供向けの科学学習漫画でニセ科学的なものが扱われる危険性と、僕がこれら漫画に期待することについて考えてみました。
※2016年現在、本エントリで指摘している部分は、改訂により変更されています


※長いので三行にまとめました※

  • ニセ科学的な理念をもつ「EM」が、子ども向け科学漫画で好意的に取り上げられているよ!
  • 科学に興味を持つきっかけになりそうな本に、ニセ科学という不誠実なものを紹介しちゃうのは嫌だなぁ…
  • 科学漫画は子どもにとって、科学へ踏み出す最初の第一歩! 大人も一緒に読めるといいね!



「サバイバル」シリーズについて

本シリーズは、朝日新聞出版から出版されている「世界中の子どもたちが熱中するすごい科学漫画シリーズ」。韓国で生まれたこのシリーズは、日本のほかにも中国・台湾・タイなどで翻訳・出版され、たくさん読まれているそうです。日本では2008年に翻訳版が出て以来、累計で50万部を突破する人気だとか*1。科学漫画としても、韓国の漫画としてもこれほどのヒットは初めてとのことです。


全作品が紹介されているページを見ると、「昆虫世界のサバイバル」「恐竜世界のサバイバル」「深海のサバイバル」「異常気象のサバイバル」など、様々な分野を取り上げているのが分かります。

文章担当・漫画の描き手は作品ごとに異なりますが、何らかのトラブルに巻き込まれた主人公の少年たちが困難を切り抜けてゆくお話はおおむね共通しています。


描き手が異なるためなのでしょう、Amazonレビューを覗いてみると「面白い」「分かりやすい」「子どもが手放さない」という声がある一方「内容が薄すぎる」「(作品によっては)翻訳がひどく会話が成立していない」「漫画のレベルが低い」など、作品ごとにかなり評価がばらけているようです。
日本国内の科学学習漫画と言えば、20代以上の方には馴染みの深いであろう学研の「ひみつ・ふしぎシリーズ」や、あさりよしとお「まんがサイエンス」などがありますが、本シリーズはそれらよりももうちょっとライトに、読みやすく手に取りやすいものを目指したのかな、という印象を受けました。
科学漫画は、現在はこんな形で子どもたちに読まれているのですね。




「新型ウイルスのサバイバル」とEM、作中での取り上げられ方

さて、そんな「サバイバル」シリーズのひとつで、ニセ科学的なものが紹介されている、という話をtwitter経由で教えていただきました。
それは「新型ウイルスのサバイバル」。さっそく本屋さんで買ってきて読んでみることにしましょう。

新型ウイルスのサバイバル 1 (かがくるBOOK―科学漫画サバイバルシリーズ)

新型ウイルスのサバイバル 1 (かがくるBOOK―科学漫画サバイバルシリーズ)



あらすじ

目に見えない未知の敵、ウイルス。スリリングな冒険がはじまる!
世界奥地探検隊に韓国代表として参加したジオ。野生的な先住民のピピ、神経質な医大生のケイとともに探検隊に入る。
しかし、文明社会とのすべての連絡を絶ち、探検キャンプが始まるやいなや、案内人をはじめ探検隊の隊員が次々と倒れてしまう。正体不明のウイルスが隊員を襲い、彼らの症状がますます深刻になっていく中、ジオは仲間を救うためジャングルに入って行くのだが…。
果たして探検隊はウイルスの脅威から逃れて、ジャングルを無事に抜け出すことができるのか?
かがくるBOOKS 科学漫画サバイバルシリーズ「新型ウイルスのサバイバル(1)」より紹介文を引用

ところでEMとは

本編に入る前に、「EM」について簡単に説明します。
EM(いーえむ)とは「有用微生物群」の頭文字を取った造語で、微生物資材の製品名です。ごくごく簡単に言ってしまえば「いろんなことに効く善玉微生物を集めたもの」とでもなるでしょうか。このEMの問題点は、「効果が期待できるか疑わしいものにまで『効く』と主張しているところ」。本来の目的だった農業用の微生物資材としてならまだしも、河川の浄化やウイルス退治、果ては放射性物質の除去にまで効くとされています。
EMそのものが、というよりも、EMの持つ思想や理論、万能性を謳うところがニセ科学的だ、と言ってよいでしょう。
参照:EMへの疑問(1) - 杜の里から



作中に登場するEM

さて、それを踏まえて、劇中でのEMの扱われ方について見てみましょう。
あらすじでも述べた通り、本作は探検隊を襲った未知のウイルスに立ち向かい、原因を探るストーリーとなっています。
ジャングルの奥地の村に取り残された主人公一行は、ジャングルを抜け、ウイルスの発生源であるこの場所から離れるべく、サバイバルに必要な道具を村の中から探し始めたのでした。

(以上3枚は「新型ウイルスのサバイバル(1)」朝日新聞出版 P146,149,150より引用しました)



原住民の女の子、ピピが持ってきた「村のおばさん手作りの消毒薬」としてEMが登場します。医学生のケイがEMについて説明、その効能について述べていますね。
最初読んだとき、僕は「糸ノコとか消毒用の酒とかロープとか、いかにもサバイバルっぽい道具を用意していたのに、なんでいきなり『EMを使ったおばさん手作りの消毒薬』が出てくるんだろう…? ここはジャングルの奥地なのに」と思ってしまいました。本作の解説要員の医学生に1ページ使って解説させているし、随分丁寧に強烈にEMを押すなぁ、というのが第一印象ですが、それはともかく。




紹介のされ方

劇中での表現をまとめると、

  • 手作りの消毒薬
  • 酵母、乳酸菌、麹菌など約80種の菌が抗菌作用をする
  • 人と自然に優しい消毒薬
  • 石鹸や洗剤としても使える
  • 清潔を保つのにとても有用

と、いいことづくめのように書かれています。

なお、この「新型ウイルスのサバイバル」には第2巻があり、2巻のコラムでは「細菌の利用」と題して

  • 米のとぎ汁をエサとして与えると、菌が増殖して強力な抗酸化物質を作り出し、洗剤の代わりに利用できる
  • 下水に流しても自然分解されるため、環境保護にも役立つ

と、作り方を図解しながら紹介しています。




(以上1枚は「新型ウイルスのサバイバル(2)」朝日新聞出版 P68より引用しました)




本作のテーマが「ウイルスへの対処」であり、マスクやゴム手袋の着用、感染経路や手洗いのやり方などについて細かく描いている中、EMを「ウイルスに効果があり、環境にやさしい手作りの消毒薬・ 洗剤」として好意的に扱っていると読み取れます。



EMそのものの問題点と、科学漫画で取り上げる危険性について

先に述べましたが、EMの問題点はその「万能性を主張するところ」にあります。元は農業用資材ですから、効果がある(であろう)分野もある(のでしょう)が、提唱後20余年が経った今も、その科学的な検証は為されていないようです。
また、生物の働きとして、明らかに効果がないと思われる分野でも「効果がある」と主張している――放射能を分解する、とか――など、「何にでも効く」と主張しているその万能性・理論が「ニセ科学」的だと僕は理解しています。
河川や湖沼への投入など、環境改善資材として用いられている例がありますが、有機物なので「汚染源になる」と問題点を指摘する行政機関もあります。

そもそも「EM」は商標登録もされている資材・飲料の製品名です。作中でEMと明記するのは「風邪ひいたよね? 早めのパブ○ン」と書いて宣伝しているのと同じではないか? とも気になります。
参照:EMというもの(追記あり) - 杜の里から
上で紹介した「EMの作り方」にもさらっと「EM原液を入れます」と書いてありますね。
EMにまつわるものが、効果が疑わしい資材・健康食品の販売と結びついていることも問題のひとつと言えるでしょう。


また、作中で描かれているように、EMが「消毒薬」 として使えるかは甚だ疑問です。
EMはあくまで「いいことをしてくれる(とされる) 微生物の集まり」にしか過ぎないので、EMそのものに殺菌・消毒効果があるわけではありません。
提唱者は「場の微生物の勢力を、善玉菌が優勢なものに変化させる」と主張しているので(実際にその効果があるかどうかは別として、ですよ、念のため)、ウイルスに効果があるとか、清潔を保つとか、消毒薬として使えるといった作中での扱いは「EMの扱い」としてもおかしいことになります*2




他の「サバイバル」シリーズはどうでしょうか

本シリーズは、書籍ごとに執筆者・漫画作者が異なっています。
「新型ウイルス〜」の責任執筆は「Gomdori.co」というストーリー作家集団の宗錫瑛(ソクソンヨン)氏ですが、本の中で科学的な内容について有識者の監修を受けたか否かについての記述は見られず、専門知識を持った方によるチェックが為されたかは不明です。なお、本の帯によるとGomdori.coは「各分野の専門ストーリー作家が共同で執筆」しているとのことで、「サバイバル」シリーズの他にも科学漫画の原作を手がけています。
チェックは当然されてるでしょ、と考えてしまうのは、科学漫画の表紙に「原作者・漫画作者・監修」が並んで書かれている日本の事情に慣れているだけだからかもしれません。


さて、僕が買って読んだのは「新型ウイルス〜」のみですが、僕の知識で内容を詳細にチェックできている自信はありません。
僕がたまたま書店で手に取ってぱらぱらと見た「地震のサバイバル」でも、自然界からの地震予知を随分大仰に扱っているなと思う描写や、政府が地震予報を出して街がからっぽになる(え、そんなに余裕持って予報出せちゃうの?)描写があったりと、首をかしげたくなる部分がありました。
他方で、Amazonのレビューには「昆虫世界の サバイバル」の昆虫描写が正確でないとか、日本国内に生息していないものが取り上げられている、という指摘があるほか、監修者がついていないのではと推察しているようなコメントも見受けられました。
Amazon.co.jp: 昆虫世界のサバイバル 2 (かがくるBOOK―科学漫画サバイバルシリーズ)の unhaさんのレビュー
Amazon.co.jp: 地震のサバイバル (かがくるBOOK―科学漫画サバイバルシリーズ)の Pzkpfwgnさんのレビュー



以上を鑑みて、僕がこの「サバイバル」シリーズに対して持った印象をまとめます。

  • 対象年齢は小学校低学年で、国内でこれまで出版されている科学学習漫画よりも低め
  • 作品によるが、内容は薄めで「子どもが読みやすく手に取りやすい」ものを目指しているようだ
  • なので、国内の学習漫画のつもりで読むと、ちょっと拍子抜けするかも
  • ニセ科学的なものを扱ったり、描写が正確でない部分も見受けられる
  • 韓国で出版されている時点で有識者による監修はついておらず、原作者がその分野について調べて書いているのでは?


なお監修については、現在朝日新聞出版さんにメールで問い合わせ中です。上記「監修がついていないのでは」は僕の印象であることを改めて明記しておきます。
国内向けに出すときは、せめて翻訳をしっかりするとか、日本向けでない内容は国内出版社のほうで補足を入れるとか、そういう配慮があってもいいんじゃないかなあ、と思います。






ニセ科学的なものが学習漫画に入り込むことの問題点

ここまで、科学学習漫画「サバイバル」シリーズにおけるEMの好意的な扱いと、EMの持つニセ科学的な問題点などを書きました。
ここからちょっと視点を変えて、「科学学習漫画とはなんぞや」ということを考えてみたいと思います。


「最初の一歩」とニセ科学

漫画って、手に取りやすいですよね。
このシリーズを探しにいくつか書店をまわったとき、どのお店でも、このシリーズが並べてあるところには、小学生の子の立ち読み客がいました。食い入るように読んでいるのを見て、児童館で「ひみつシリーズ」を読み漁っていた子どもの頃を思い出したりしました。

科学に興味のある子が手に取るのか、たまたま手に取ったのが科学漫画だったのか、きっかけはそれぞれでしょうが、僕はこれら学習漫画が、学問や興味分野の形成にとても大きな役割を果たしている、と感じています。科学について言えば、科学学習漫画は「科学へ踏み出す最初の一歩」になり得る媒体だ、と思っています。
そして、この分野へのニセ科学のまん延について僕が危惧しているのも同じ理由です。


小学校に入学する前くらいから低学年・中学年にかけて、子どもたちは自分の興味のある対象にとても貪欲になりますよね。
外で虫を追いかけつづける子がいて、図鑑にかじりつく子がいて、捕まえた生きものを手当たり次第家に持って帰って飼ってみる子がいて…。科学に興味を抱いた子どもたちを見ると、「今、この瞬間に、彼らは原体験をつくっているんだ」と思うのです。その体験、その記憶は強烈で、一種のすり込みとも言い換えられるでしょう。この時期に吸収した知識や考え方は、次に更新されるまで、無批判のままで持ち続けることになります。


だからこそ、「科学への最初の一歩」が、あやしい放射能対策に繋がったり、差別的な二元論に繋がりかねない要素を含んで欲しくない、と考えるのです。


(ただ、この部分、あんまり根拠はないんです。僕がそう体験したからそう思っている、というだけで。もちろん僕も、漫画だけ読んで科学に興味を抱いたわけではありませんが、ある分野へのきっかけや、別のきっかけで抱いた興味を膨らませる媒介は、明らかに科学漫画が果たしたと言っていいと思っています。)



ニセ科学と、学習漫画と、大人の誠実さ

科学漫画は、僕たち大人が「これが科学への入り口だよ」と子どもたちに提示するものですよね。
そこで「これを使えば大丈夫」と主張するニセ科学的なものを紹介するのは、子どもたちに対して、そして科学に向き合う大人の姿勢として、あまりに不誠実だと僕は感じます。
「科学」って、「科学があれば大丈夫」とか「科学で 証明されたから間違いない」というものじゃなくて、「どうしてそうなるんだろう?」ということを考えるときに助けてくれるものだと思うのです。
子どもに正しい知識と、自分で答えに到達できる考え方を育んでもらおう、という媒体に、不正確な情報とか、偏った考え方に転びかねないものは含まれていないほうがいいはずです。


ただ、ちょっと大げさかなぁ、とも思っているんです。ステレオタイプな教育ママが「これは教育に悪い!」とヒステリックに声を荒げる姿と、このエントリを長々と書いている自分の姿がダブって見えたりもしました。
実際、「これを読んでもし子どもが○○したら〜」と 危惧する気持ちもないわけではないんです。「EMを無批判に受け入れてしまうのでは」とか、「友達が怪我したときに色々と菌が繁殖した液体を傷口にかけちゃったら怖い」とか、そういうことを考えたりもします。


色々と考えてみたのですが、結局僕は、「EMがニセ科学でそれが好意的に書いてあるから悪い」と思っているのではなくて、「子どもたちに読んでもらうものに、ニセ科学という不誠実なものを紹介してしまう大人の姿勢やチェックの甘さ」を問題だと思っているのだと気づきました。




科学漫画への期待

科学学習漫画への期待

ここまであれこれと書いて参りましたが、僕はこの科学漫画市場や業界にものすごく期待しています。
理科離れが取りざたされる昨今、子どもの「最初の一歩」に繋げられる媒体として、漫画を用いたものはとても有効だと信じている、と言ってもいいくらいです。
私事ですが、僕が環境教育に携わっている動機・目標のひとつが、まさにこの「最初の一歩」への参与なのです。良質な科学漫画は、きっと未来の科学少年の力になってくれるはずです。
内容を手放しで薦めることができるかはとりあえず保留しておくとしても、この「サバイバル」シリーズのヒットは喜ばしいことだと思います。国内向けの出版を手がけている朝日新聞出版の慧眼と努力に感謝したいですし、これがヒットしシリーズ化された韓国の科学教育について興味を抱きました。


まとめ

本エントリでは、科学学習漫画に取り上げられたニセ科学的な存在「EM」とその問題点、僕がそれを問題視する理由を書いてきました。
この科学漫画という媒体にとって望ましい形がどのようなものかは個々人で考え方が異なると思います。「内容が薄かったり、ちょっと間違ったことが書いてあっても読みやすいほうがいい」と考える方もいるでしょう。
読みやすさについては、ちょっと難しいものもごく分かり易いものも、どちらも必要だと僕は考えます。ただ、そこに「あえて間違ったものを入れる」「ニセ科学として問題視されているものを入れる」必要はないと思います。


既に人気シリーズとして出回っているものなので、この作品の扱いとしては読み手が気をつけることしかできないのですが、翻訳ものの科学漫画は今後有識者にチェックをお願いするとか、国内向けの補足を入れるとか、可能な範囲で対処されるといいなあ、と思っています。


ここまで読んでいただいた方にはご理解いただけるのではないかと思いますが、念のため、僕のスタンスを表明しておきます。
僕は決して、「ニセ科学を取り上げているから販売を停止しろ」云々と抗議をしたいのではありません。
子どもに読んでもらう入門書籍に、ニセ科学的な考え方に繋がるものを入れる必要はないんじゃないかな、と考えます。
「まとめ」と題しましたが、あまりまとまっていない自覚があります。エントリ内でも矛盾があるかもしれません。考えが甘いとか間違ってる、といったご意見を含め、お聞かせくださると嬉しいです。



最後に、子どもが科学に興味を持ち始めたお父様・ お母様方へ

若輩の僕が言うべきことではないと思うのですが、言わせてください。偉そうで申し訳ありません。
お子さんの読むものを、一度ご自分でも読んでみてください。そして、何が正しいのか、一緒に考えてみてください。
もちろん、子どもが本を読むのは家だけではありませんし、その全てを管理できるとも、またすべきだとも僕は思いません。それでも、お子さんが興味をもった分野があるなら、それについてどういう情報を得ているかとか、それがどのようなものなのかは、一緒になって考えてみるべきじゃないかな、と考えます。

この「新型ウイルスのサバイバル」のEM菌の扱いについては、「菌でなんでも解決できるわけではない」「健康によくない菌が一緒に増えるかもしれないから、自分でやってみるのはやめておこうね」と伝えてあげるくらいでよいかなと感じます。


リンク集

本エントリの作成にあたり、ニセ科学についてこれまで言及されてこられた皆様の議論が大変参考になりました。この場で御礼申し上げます。特にEMについての情報・考え方はOSATOさんのご意見に頷けるところが多く、参考にさせて頂きました。ありがとうございます。
以下、EMおよび教育とニセ科学についてのリンクを残します。


杜の里から(OSATOさん)

長島雅裕のホームページ(長崎大学教育学部 数理情報講座)

妄想科学日報(仮)


Skeptic's Wiki


有用微生物群(EM)まとめ


http://synodos.livedoor.biz/archives/1796844.html



ちょっと論点が違いますが

追記(2016年2月)

本エントリで指摘した、本書のEM菌に関わる部分は、改訂により変更・削除されているのを確認しました。
確認した変更点は以下の通りです。

  • 「新型ウイルスのサバイバル(1)」P150『あれ? これはEMじゃない?』など、EMという言葉は一切なくなり、『消毒薬』などに置き換わっていました。
  • 同ページの医学生ケイがEMの解説をする部分『そう、EMは有用微生物群という意味で~』『EMは石けんや洗剤としても使えるよ。~僕たちが清潔を保つのにとても有効だな』は、『消毒薬には○○○や△△△などがある』等に置き換わっていました。
  • 「新型ウイルスのサバイバル(2)」P68解説『細菌の利用』でEMに割かれていた部分は削除され、1巻で使われていた酵母や麹菌、乳酸菌の顕微鏡写真が表示されていました。
  • 確認した版は、1巻が2013年11月30日(第12版)、2巻が2015年1月30日(第14版)でした。

本エントリを作成したのが2012年3月であり、遅くともその1年8ヵ月後の版からはEMに関する記述がなくなっていたことになります。エントリ作成後、朝日新聞出版さんには直接メールを送っていたものの、お返事がなかったため諦めていたのですが、「異常気象のサバイバル 1 (かがくるBOOK―科学漫画サバイバルシリーズ)」のAmazonレビューで修正された旨指摘があるのを見つけ、確認した次第です。
直接的な要因になれたかはわかりませんが、大変うれしく思います。編集部の方に感謝致します。

また、2012年以前の版での表記はそのままなわけで、学校司書など広く子供に読ませる立場の方におかれましては、もし可能でしたら新しい版に更新する等、対応していただけると嬉しいなと思います。科学漫画が読まれること自体は喜ばしいことですし、ね。


ところで、上記「異常気象のサバイバル」にもマイナスイオンが取り上げられていたり、別の作品にも極端で正確でない表現があったりと、「サバイバル」シリーズに『漫画としての面白さのために不正確な情報を記載することがある』という作品づくりの姿勢が共通しているように思えてなりません。
子供に希求する作品と科学的正確さのバランスは難しいのですが、大人気科学漫画シリーズで影響力も大きいことから、翻訳後に専門家によるチェックを入れるとか、可能な限り正確さを保つ(というより明らかな科学的誤りを除く)努力を続けていただきたいと感じます。
(以上、2016年2月13日更新)

*1:2011年4月時点・多分もっと増えているでしょう。

*2:一方で、EMを口蹄疫に用いると効果がある、と主張もしています。この問題点についてはOSATOさんのブログ記事をご参照ください。