紺色のひと

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コウモリ写真展と写真集『BAT TRIP』

札幌でコウモリの写真展がある、と聞いて、妻と行って来ました。
中島宏章写真展 BAT TRIP

写真展のこと。

きっかけは、ちょっと変わったDMをもらったこと。
ん? コウモリ?


開くと、写真展「バット トリップ」のお知らせが。

コウモリが海を飛ぶ? 雪のなかでまるくなる?
しらなかったけど おもしろい
ふしぎな旅の、記録です。

僕はコウモリのことなんてよく知らないけれど、白黒で格好いい。これは行ってみるしかないでしょう、と、妻とふたり行ってきました。会場は札幌大通公園に面した富士フィルムフォトサロン。
こんなポスターが貼ってありました。DMのことといい、広告に力が入ってるな、という印象です。


この写真展は、平成22年の3月、自然写真分野の登竜門と呼ばれる「田淵行男賞」第3回グランプリを受賞した中島宏章さんが、初の写真集の上梓に関連して開催したものとのことです。
受賞作品は20枚組、コウモリを中心に、北海道に生息する野生動物でストーリーが編まれています。サイズは小さいですが、安曇野アートラインの紹介ページから作品を見ることができます。雪の中、街灯の傍、川の上、枯葉の中、果ては海の上まで! 様々な場所、様々な場面でのコウモリの姿が、ひとつの物語となって写し込まれているこの作品は、生物写真としても、芸術写真としても、短編の物語としてもとても優れていると僕は感じました。


できるものなら、僕が写真展で受けたこの衝撃を拙ブログを読んでくださっている方に余すところなくお伝えしたいところではあるのですが、画像を貼ることもできないので、せいぜいリンクを紹介しますね。
ぜひ、中島さんのwebサイトの写真紹介ページや、イラストレーターの菅沼さんと共同で作っているwebサイトのコウモリ紹介ページ(なんと声まで聞ける)などをお読みください。


コウモリというテーマと、写真から伝えられること。

さて。
個人的な話になりますが、先日、妻と動物写真家の大御所:岩合光昭さんの写真展に行ったのです。タイトルはずばり「ねこ」。会場には女性を中心に、家族連れからカップル、老夫婦など、まさに老若男女が頬を緩めて世界各地のねこ写真に見入っていました。内容はさすがの岩合さん、かわいいだけではないネコの生態を捉えた素晴らしいものでした。


そこへ行くと、コウモリって。コウモリなんて、と言うと叱られてしまいそうですが、コウモリにネコほどの良いイメージがあろうはずもありません。血を吸うとか、暗闇にいるとか、じめじめした洞窟の天井に張り付いているとか、鳥と獣のどっちつかずの蝙蝠野郎! なんて言葉もありますよね。
でも、中島さんの写真を見ると、そういうイメージがすっと消えてゆくのが分かるんです。超音波を出しながら空を飛び、一晩でたくさんの虫を食べ、ちょっと変わったベッドで眠る。そんなコウモリの様々な生態を、僕はただ知らなかっただけなのだと。吸血するコウモリだって、全世界の1150種のコウモリのうちのたった1種だけ。コウモリに対して、自分たちがどれだけ偏った印象を抱いているか、考えてみるのもいいかもしれません。
中島さんの写真で面白いなと思ったところはもうひとつあります。それは「かわいいだけじゃない」というところ。例えば、小さく丸まって眠るコテングコウモリはとても愛らしいし、コンクリの壁面にへばりつくように止まるドーベントンコウモリの顔は愛嬌があってとてもかわいらしい。そして夜空を飛んでねぐらに戻るウサギコウモリの耳は凛々しい。そのほか、エゾユキウサギやキタキツネなど、動物の写真として「かわいい」と観る側に思わせる力があります。けれど、そのかわいらしさと同時に、彼らが確かに野外に生活する野生動物であり、それぞれの習性をもって自立して生きていることを思い知らされるような――かといって、よく使われる言葉である「野生の厳しさ」を観る側に押し付けることはしない――不思議な懐の広さのある写真だと僕は感じました。
事実、僕が会場に居た一時間弱の間、出入りしていたお客さんは若い男性から大学生らしき女の子、妙齢の女性、老齢の男性――など様々でした。中島さんにお話を伺うと、写真展も3日目にして老若男女たくさんの方が訪れてくださっている、とのことで、「撮影対象がマイナーなのに受け手を選ばない懐の広さがある」という僕の実感はあながち間違っていないのかな、と思いました。


中島さんと、会場の様子*1。バックの写真は、第3回田淵行男賞グランプリ受賞作の18枚目「どこにだって飛んでゆける」。

写真集「BAT TRIP」のこと。

この写真展「BAT TRIP」は30日(水)まで。札幌周辺の方は、お時間をつくってぜひ。
残念ながら写真展に行くことができない方も、この度上梓された同名の初写真集「BAT TRIP ぼくはコウモリ」で、非常に奥の深いコウモリの世界へ旅立ってみることを強くお勧めします。コウモリの生態、撮影の苦労話、動物写真家:宮崎学氏との対談など、エッセイとしてもとても読み応えがあります。
かわかわいいけど、かわいいだけじゃないコウモリの姿、ぜひご覧になってみてください。

BAT TRIP―ぼくはコウモリ

BAT TRIP―ぼくはコウモリ


ちなみに、会場で写真集を購入すると、抽選でバットディテクター(コウモリ探知機)が当たっちゃう、という恐ろしいキャンペーンが開催中。バットディテクターとはコウモリの発する超音波を可聴域に変換してくれる機械。残念ながら僕はハズレでした。本気で欲しかったのに…。

*1:会場内は撮影禁止です。ご好意に甘えさせて頂きました。ありがとうございました。