紺色のひと

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紙袋の中味

高校の友人が就職で東京へ行く、というので会った。繁華街の外れで待ち合わせて彼の車に乗り込む。どこに食いに行く? と僕が聞くと、あぁ、飯の前にちょっと付き合ってほしい場所があるんだ、と言って車を発進させた。車を立体駐車場に入れ、後部座席に置いた重そうな袋を持って彼がビルに入る。ここは、まさか。僕は気づいてしまった。
「立つ鳥跡をなんとやらかよ!」
「その通り」
彼はオタクである。両手に提げた紙袋一杯の成年コミックスと同人誌を売りに来たのであった。結局値がついたのはそのうちの一部で、未だ紙袋ひとつぶんが残った。僕たちは顔を見合わせて、ざまみろ! 大丈夫、あてがあるから、と笑い、今後こそ郊外の喫茶店に向かった。
「今まで24年間暮らした札幌最後の日が、『落ち着いた雰囲気の店で男とふたりケーキを食う』だぜ」
「おまけにエロ漫画売りにまで同行させやがって」
「他人の見ると趣味が一目瞭然だよなぁ」
「残念なことに、お前とは気が合いそうだ」
いつもどおり、と言うよりは昔となにも変わらず会話が続く。変わっているのは、当時を振り返るだけの余裕がお互いに生まれていることだ。こんな別れ際でも、話す内容はいつも似たようなことだし、きっと彼が戻ってきてまた会っても同じだろう。
僕の部屋まで送ってくれた彼は別れ際、自分の財産をベッドの上に広げ、それら愛読書と一緒に最高に気持ち悪い笑顔で写真に収まった後、明日の出発の準備をするため家へと帰って行った。僕の部屋には紙袋が残された。