紺色のひと

思考整理とか表現とか環境について、自分のために考える。サイドバー「このブログについて」をご参照ください

絵本「せいめいのれきし」に改訂版が出ました

絵本「ちいさいおうち」で知られる作家、バージニア・リー・バートン。彼女の作品の中で、いえ僕がこれまで読んだ絵本の中で、もっとも好きなのが「せいめいのれきし」です。幼い頃から何度も繰り返し読んで、娘にも何度も読み聞かせたこの本。この度、やや古くなった内容の改訂版が出版されたと聞き、早速読んでみました。



◆「せいめいのれきし」ってどんな本?

バージニア・リー・バートンによる、”地球上にせいめいがうまれたときから いままでのおはなし”です。原題はそのままずばり「LIFE STORY」。地球の誕生から、生命がうまれ、進化を遂げて、さまざまな生物が栄枯盛衰を繰り返したあと、やがて人間の時代になっていく……という壮大な歴史を、全5幕の劇を語るように描かれた物語です。なお、バートン女史の代表作はなんといっても「ちいさいおうち」。この「せいめいのれきし」は、「ちいさいおうち」が描かれた20年後、8年間をかけて完成したものです。対象年齢は4〜5歳程度とされています。
日本語訳は、クマのプーさん等の訳者としても知られる石井桃子さん。この訳がまた素晴らしいのです。後ほど紹介します。

せいめいのれきし 改訂版

せいめいのれきし 改訂版

ちいさいおうち (岩波の子どもの本)

ちいさいおうち (岩波の子どもの本)

はたらきもののじょせつしゃけいてぃー (世界傑作絵本シリーズ―アメリカの絵本)

はたらきもののじょせつしゃけいてぃー (世界傑作絵本シリーズ―アメリカの絵本)


こちらは僕が子供の頃に読んでいた「せいめいのれきし」1986年版。背表紙やページの補強テープが、お気に入りの一冊だったことを物語っているようです。


◆どんなところが新しくなったの?

この「せいめいのれきし」の初版は1964年、今からおよそ50年前です。古生物学や地質学の進歩・発見により、書かれている内容の一部が古くなったり、知見が新しくなったりした部分が書き換えられています。帯によると、

  • 地質時代区分の年代
  • 進化の歴史や気候変動についての説
  • 生物の名前(学名)などなど……

アメリカで出版されたUpdate Editionを元に、日本語版独自の改訂を加えました。

とのことです。原版が2009年にアップデートされ、今回その日本語版が出たということですね。なお、改訂の監修をされているのは、国立科学博物館の真鍋 真博士。そして訳文については、「真鍋博士と東京子ども図書館のみなさんの協力により、石井桃子訳を活かしながら、適宜改訂を加えました」とのことです。


◆どんな感じになっているの?

変わっているところを、一部のぞいてみましょう。

ページをめくってゆくと、地質年代区分の数字や用語の呼び方が新しくなっているのがわかります。例えば「水成岩」は「堆積岩」に、「二畳紀」は「ペルム紀」になっています。


この本でも数ページを割かれて語られている恐竜の時代。僕が子どもの頃から現在に至る約30年間でも、ものすごく大きな変化がありました。ティラノサウルスは尻尾を引きずらなくなったし(ゴジラが尾を引きずっているのは昔の復元図を参考にしているからなのです)、今は羽や体毛、色についても様々な発見や考察があるようです。恐竜小僧だった僕の知識も、かなり昔で留まっており、親戚の子どもと恐竜の話をすると、「えっ、今そんなふうになってるの!?」と驚くことが多いです。


なお、この「せいめいのれきし」では、「恐竜」という呼び方すらされておらず、一部に「ダイノサウル」という表記が見られるのみで、僕が子どもの頃の時点で既に古さを感じるものではあったのですが、さて。
中生代ジュラ紀、ブロントサウルスがアパトサウルスに。


白亜紀、あれ……プレシオサウルスがいなくなってる!

(この写真は左側が改訂版です)


白亜紀、ティラノサウルスも(暴君りゅう)という古い呼び方がなくなりました。


白亜紀、恐竜が絶滅したことについて、旧版では「ひとつひとつ死にたえて、ぶたいからきえていきました」という表現が、より詳しいものに。


他にも変更点が多々あるのですが、詳しくは読んでみてのお楽しみ、ということで。


◆この本の好きなところ

母によると、僕はこの本の恐竜の部分がたいへん気に入っており、そこばかり読んでいたということなのですが、大人になって読み返してみると、また別のところが心に残るようになりました。
舞台の形式で進んでゆくこの物語、最後の第5幕はバートン女史のアメリカでの生活をなぞって描かれたものになっています。アメリカに開拓移民が入り、農業を行い、そこからひとが離れ、再びひとが入り……。そこで暮らす彼女は、四季の美しさや草花の変化をなぞりながら、美しい日々の時間が流れてゆくさまを描きます。


夏が来て、秋が過ぎ、冬になり、春が訪れて、そのある春の朝。やがて日が高く昇り、傾いて、ゆっくりと夜になってゆく。
そして、夜が明けるのです。

さあこれで、わたしのはなしは、おわります。
こんどはあなたがはなすばんです。窓の外をごらんなさい。
じきに、太陽が、のぼります。

さあ、このあとは、あなたのおはなしです。
主人公は、あなたです。
ぶたいのよういは、できました。
時は、いま。場所は、あなたのいるところ。
いますぎていく1秒1秒が、はてしない時のくさりの、あたらしい わ です。
いきものの演じる劇は、たえることなくつづき――
いつもあたらしく、いつもうつりかわって、わたしたちをおどろかせます。


「いますぎていく1秒1秒が、はてしない時のくさりの、新しいわです」。なんと美しい言葉でしょう。
地球に連綿と続くいのちの営みが、確かに今の僕たちに繋がっているということ。
長い年月を越えてなお、夜が明け、日が昇り、次に自分自身の物語が始まるのだということ。


これをお読みいただいた皆さんの中で、この絵本を手にとって、身近な年若いひとにも教えてあげてくださる方がいらっしゃったら、こんなに嬉しいことはありません。


◆あとがき

この本には強い思い入れがありますが、改訂版が出ることを最近まで知らず、作家の川端裕人さんのツイートに教えていただきました。ありがとうございました。


川端さんの作品では「川の名前」「夏のロケット」が好きです。

川の名前 (ハヤカワ文庫JA)

川の名前 (ハヤカワ文庫JA)

夏のロケット (文春文庫)

夏のロケット (文春文庫)