紺色のひと

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熊森協会の言う『餌付け』とは一体なんなのだろうか

日本熊森協会さんは、奥山保全などの活動をされている実践自然保護団体です。ただ、その活動や自然保護観は、一般的な保護・保全手法と一線を画しており、観念がズレていたり、思い込みが過ぎるように見える部分があったり、独自定義の語を使ったりしていることが多くて、いきもの好きの僕は首をかしげることが多いです。



クヌギのどんぐり。北海道在住の僕にとっては馴染みの薄いかたちです。こちら、ブナ・ナラ系のどんぐりはミズナラが主で、コナラが地域限定で生え、後は北海道大学の構内にアカナラがあったりするくらいなのですよね。


熊森協会さんの餌付け観について(おさらい)

そんな熊森協会さんの活動のひとつとして広く知られている「どんぐり運び」。どんぐりや、最近はカキを、「お腹をすかせて人里に出てくるクマに届けてあげよう」という活動です。熊森協会さんの定義によれば、

豊かな森を再生させるまでの間、山の実りの凶作年に都会のどんぐりを拾い、山間地の地元の方々と協力して食糧が無くて人里に出てこざるをえないクマをはじめとする山の動物たちに届け、人間のところに出てこないようにすることです。
日本熊森協会ホームページ:どんぐり運びより(リンク先は魚拓、現在ページは消去されている)。強調はアサイによる。

ということだそうです。


目的はさておき、行為としては「クマなどの動物たちの餌として、どんぐりを山*1に置いてくる」というものです。
これって、餌付けだよね? 野生動物に餌付けするのは良くないよね? ……というのが、僕が熊森協会さんに対して抱いている大きな疑問のひとつです。

このあたりの問題意識については、過去にいくつかブログ内で書いているものがあるので、リンクだけご紹介します。

熊森関東支部の「春にもドングリをまく」案に反対します - 紺色のひと
絵本「どんぐりかいぎ」で学ぶ熊森ドングリ運びの問題点 - 紺色のひと
毎日新聞さん、熊森ドングリ運びはただの美談ですか? - 紺色のひと


熊森協会さんの餌付け定義について

さて。

熊森協会さんは、過去にも「自分たちの活動は緊急避難措置であって餌付けではない」というような発言をしています。
クマの餌になることを期待してどんぐりを運んでおいて、それが餌付けではないと言い張るのは、じゃあ一体何のために運んでいるんだ、そもそもあなた方の考える餌付けの定義ってなんなんだ、と聞きたくなるところなのですが、その定義は熊森協会会長の発言などから明らかになっています。以下に引用します。

山の実りの凶作年に、ドングリを運び、クマが人里に出てきて殺されないようにすることは、餌付けとは全く別のものです。
日本熊森協会ホームページ:どんぐり運びについて:Q&A(魚拓)


こちらは協会会長の森山氏の発言。2011.1.10の産経のweb記事から。

森山は「出てきたクマを殺すのは生態系への人為攪(かく)乱(らん)」と指摘した上で次のように強調した。「クマは森の生態系の頂点。自然界のバランスを壊した人間と動物とのすみ分けを復活させたい」
しかし、ドングリ運びには批判も多い。環境省は野生動物が人里へ出没する理由の一つとして餌付けを挙げて中止を呼びかける。人間が与えた餌や放置したゴミに野生動物が依存している−というのだ。
だが、協会は「餌付けの目的は人間のところに引っ張り出してくること。ドングリ運びは奥山からクマが出てこないようにすることだから餌付けではない」と否定する。
【ボーダー その線を越える時】(9)自然の境界 野生クマへの餌やりは保護かより引用した*2。強調はアサイによる。


つまり、「熊森協会のどんぐり運びはクマが出てこないようにするための活動だから餌付けではない」という主張のようです。活動がどんな行為かは関係なく、目的によって定義されているとも読めますね。


……それは、餌付けの独自定義じゃありませんか?
熊森協会の定義する餌付けじゃないとしても、野生動物に餌を与えるという行為自体はなんら変わらないですよね。
餌付けと呼ぼうが餌を置く行為と呼ぼうが、やっていることは山に餌を外から持ち込んで与えていることに他なりません。
これまで、クマ研究者の方やブロガーなどから為されている批判の中には「餌を与えることにより発生する問題点」を指摘したものがあります。加えて、その他の遺伝的攪乱や個体数調整上の問題、また結果のモニタリングの不備といった問題点の指摘に関しては、いまだに協会はデータを示すことなく、答えずにいます。


順序が逆だし、"お前が言うな"案件

以上のような内容は、2010年のどんぐり運びフィーバー期から既に明らかになっていたことだったのですが、今になって、熊森協会さんが餌付けに関して公式ブログに書いていたので、ちょっと振り返ってみたのです。


ここで、2015年2月6日の記事をみてみましょう。
以下は、<冬の京都奥山調査> これこそ餌付け、野生動物たちを山から次々とおびき出している−日本熊森協会公式ブログ くまもりNEWS同ウェブ魚拓)より引用しました。

1月27日、雪が積もる京都の奥山を調査しました。林道に入ると、道沿いの雪上にベージュ色の粉がまかれていました。
米ぬかでした。見渡すと、道路沿いに何カ所かまかれています。地元の人に聞くと、こうやって山奥から動物たちをおびき出すのだそうです。イノシシなら、1頭仕留めたら、30万円で売れるということでした。こうやって1年中、山奥から動物たちをおびき出しておいて、動物が山から出て来たからけしからんと、動物を敵視する。人間の道徳観として、疑問でした。

ヌカは、イノシシをおびき寄せるためにまいたのでしょう。

米ぬかについて

米ぬかはイノシシ駆除のためにまかれたものです。公式ブログでは「地元の人に聞くと、こうやって山奥から動物たちをおびき出すのだそうです」と書いていますが、餌をまいて目立つところにおびき寄せ、駆除しやすくするための手法です。捕獲のための箱わなに使われたりもします。例えば茨城県によるイノシシ捕獲マニュアル(pdf)にも、わなの餌に米ぬかを主体とすることが書かれています。


で、なぜ米ぬかをまいておびき寄せる必要があるかというと? そう、既にイノシシが人里に出没し、農業被害が発生しているからです。JAグループ京都によると、平成24年の鳥獣による農業被害のおよそ1/4がイノシシによるもののようです。

  • イノシシが出る → 農業被害が発生 → 駆除のために米ぬかをまく

なのであって、熊森協会さんの想像しているストーリー

  • イノシシをとるとお金がもうかる→ 米ぬかをまく → イノシシが山から出てきてしまう → 人間の道徳観として疑問

はまるで逆なのです。
というか、北海道でヒグマに対してとんちんかんな発言をするならともかく、お膝元の兵庫にほど近い京都ですよ。わざとこういう(動物と敵対する人間はけしからん、悪いのは人間だ…という)書き方をしているのでなければ、イノシシによる農業被害が出ているのも、どのような対策が取られているのかも知らないひとが、公式ブログを堂々と更新しているということになります。
わざと書いているなら、支持層を良く分かっていて、殺すなんてかわいそう! という感情を煽ってコントロールしようとしているな、と感心しますが、もし分かっていないのであれば、実践保護団体を名乗っているのに実践的な知識がまるでないことになります。

餌付けによって山から出てきている、について

ヌカ以外にも、箱罠、囲いわななど、人里には果物、野菜、ヌカ、ハチミツなど、中においしい物が入った罠がいっぱい仕掛けられています。このような行為こそまさに餌付けですが、国が咎めないのは不思議です。最近、動物が山から出て来るようになった原因はいくつかありますが、一つはこの餌付けでしょう。

最近、動物が山から出て来るようになった原因はいくつかありますが、一つはこの餌付けでしょう。


最近は問題点に気づいたのか、あるいは批判が鬱陶しくなって表立ってやらなくなったのか、公式ブログなどにはどんぐり運びの情報が出て来なくなりました。もうやらないことにしたのかもしれません。
それは分からないのですが、上記内容は、数年前まで「どんぐり運び」活動を大々的に行っていた団体の発言として、ちょっと、理解に苦しみました。以下のような意味合いで。

  • 米ぬかが批判されるべきなら、あなた方のどんぐり運びはどういう位置付けになってるの!?
  • 熊森協会が国に咎められないのは不思議ってことなの!?
  • 「このような行為こそまさに餌付け」って、どんぐり運びと「行為として」何が違うと思っているのか説明して欲しい
  • どんぐり運びによって山から出てくるのを助長してるって言いたいの? 膨大なデータに基づいたらそうなったの!?


いずれにせよ、僕が声を大にして言いたいのは次の一言だけです。

最近、動物が山から出て来るようになった原因はいくつかありますが、一つはこの餌付けでしょう。


はい、それでは。えー、ゴホン。
お前が言うな。


以上、言葉が乱れて大変失礼致しました。



*1:実際は彼らの言う「奥山」に限らず、車で行き来できる林道沿いに置いてきている、という写真もあったりするのですが…

*2:文中「森山」は熊森会長:森山まり子氏のこと