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紺色のひと

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札幌のヒグマ出没についてちょっとしたまとめ

生活 環境 ニセ科学

札幌市内でヒグマの出没が相次いでいます。山林に面した同市内では、これまでもヒグマが目撃されることは珍しくありませんでしたが、今回は中心部にほど近い住宅街での目撃が多発したため、大きなニュースとなりました。10月10日現在での出没状況を簡単に整理してみました。


※ヒグマ出没に関して、市民ができる対策※
札幌市の「ヒグマ対策」のページおよび周辺で得られた情報から、現在の市内の出没状況に対してできる対策を抜粋します。

  • 薄暗いときなどには山へ近づかない
    • ヒグマの主な活動時間は、夕暮れから夜間、早朝までの間です。現在出没が確認されている中央区・西区および南区にお住まいの方は、薄暗い時間の外出には充分注意なさってください。
  • 早朝・夕方の散歩、特に犬を連れた散歩は控えましょう
    • 同様の理由で、早朝の散歩等でヒグマに遭遇する危険があります。特にイヌを連れた散歩ですと、イヌが吠えてクマを刺激する危険性が考えられます。
  • ゴミを出すときは必ず決められたルールを守る
    • ヒグマは住宅街へ餌を探しに来ていると考えられます。人間が出す残飯等のゴミに誘引されて味をしめた場合、同じ場所に通う事例があります。ゴミは決められた日時に出し、夜のうちに出さないようにしましょう。
  • もし出会ってしまったら
    • 心を落ち着けることが第一です。
    • クマがこちらに気付いていない場合、ゆっくりとその場を離れましょう。
    • クマがこちらに気付いており、距離がある場合は、クマから目を離さないようにしてゆっくりと距離を取りましょう。
    • 急な行動はクマを刺激するために避けましょう。
    • 状況ごとの行動詳細は、知床財団−ヒグマ対処法を参照してください。

札幌での出没状況

札幌におけるヒグマの出没状況については、各報道で概ね明らかとなっています。

札幌市が発表しているヒグマ出没情報を見ると、10月5日から8日にかけて、札幌市中央区の住宅街で数度目撃例があるようです。

(この図は「クマ出没で立ち入り禁止も 連休の札幌、警戒強化−ANNニュース」よりキャプチャ画像を利用させて頂いています)


どうしてこんな騒ぎになってるの?

人口が200万人に届こうとしている札幌とはいえど、やはり試される大地。「大通公園にクマが出るんでしょ?」なんて笑い話を信じられてしまった経験は僕にもあります。
実際、札幌市内では日常的に目撃されている場所もあるのに、どうして今回こんなにヒグマ出没がニュースになっているのか、地図を見ながら確認してみましょう。



札幌は石狩川および支流豊平川扇状地に形成された都市です。周囲を広域で見てみると、南西部には山が接しているのがわかりますね。特に南部は、環境省の指定する支笏洞爺国立公園に接しています(pdf地域図)。ちょっと山の奥に入ると、ほぼ手つかずの森林が残っている地域と山が繋がっているので、札幌市南区・西区では平成22年以前も毎年のように目撃例があります。



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もうちょっと拡大してみましょう。

今回目撃が多発した「藻岩山(もいわやま)」と「円山(まるやま)」。市内南部の「濃い」山と繋がってはいるものの、札幌市民にとって、このふたつの山は特に親しみが深いものです。住宅地との距離の近さだけでなく、標高が低く登りやすいことから、市内の小学校の登山遠足で使われたり、近所の公園感覚で訪れる方が多いのですね。ドングリだけでなく、コクワやヤマブドウなどの木の実もよく生っているのを見かけます。
また、藻岩山・円山周辺は、札幌市内の文教地区と認識されています。ヒグマの出没により、小学校では集団登下校が行われたり、住民に与えた恐怖は大きかったものと推察されます。


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さらに、住所で言えばこれらふたつはどちらも「中央区」。観光地としておなじみ、大通公園やテレビ塔、そして(がっかり観光地として名高い)札幌時計台と同じ中央区に含まれているのです。一番近い目撃例で、大通公園から約2km。ヒグマは最高時速60kmで走ることが知られていますから、ちょっとその気になれば、数分とかからずに繁華街まで出てきてしまえる距離なのです。
そりゃ、札幌市民はみんな驚きますよ。


また、8日のニュースでは、これまでの出没で最も中心街に近い、南19条西10丁目での目撃が報道されました。
またもクマ目撃情報 札幌・中央区南19西10の市道−どうしんweb
札幌のヒグマ(その2)石山通近辺にクマ!−天漢日乗さんで詳しく触れられていますが、この出没箇所は、藻岩山から出た個体が片側2車線の国道を横断し、再び山へ戻る方向だと考えられます。
石山通オートバックスとか、現かつやがあるあたり)周辺に土地勘がある方はお分かりのことと思います。住宅街ど真ん中なのですよね。


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さらに、ここから500mも東へ進めば、札幌市内を貫流する豊平川があります。豊平川河川敷に入ってしまえば、川づたいに創成川を抜けて、テレビ塔直下に突然ヒグマが出現、なんて事態も笑い話ではなくなります。
以上のように、札幌市民にとっては、今回のヒグマ出没は(たとえ近所でなくとも)身近に危機を感じることだと考えています。


出没の原因

報道されているように、今秋北海道でヒグマの出没件数が増加しているのは、ドングリ等の堅果類の実生りが悪い=不作であることが一因であると考えられています。ヒグマは秋になると、冬眠に備えて栄養価の高いドングリ類をたくさん食べるのですが、年によってドングリには豊作・不作があるため、生りの悪い年には食べ物を探して人里に降りてくるようになる、とされています。
今年に関しては、9月の時点で出没増加が予測されていました(ヒグマ:6年ぶり、出没警報 ドングリ不作で腹ぺこ−毎日新聞)。
なお、札幌は街路樹としてナナカマドが多く利用されています。ナナカマドはこの時期に赤い実をつけ、ヒグマの食物にもなります。


※餌不足はあくまで一因であり、背景にはヒグマ個体数の増加や人に慣れた個体の出現など、複合的な多くの要因があると考えられています。


さて、ドングリの不作を裏付けるかのように、近郊の恵庭市で射殺されたヒグマの胃の中は空であったとの報道がありました。
クマ牧場の元学芸員の方が、「今、食べ物がないので、大きいクマたちが良いところを取ってしまう。その結果、今年母親から独立したばかりといった弱い立場のクマが行き場がなくなって人里に出てきている」と仰っていました。森林の中の餌は限られているので、餌が少ない年は当然食いっぱぐれる個体も出てくるわけで、お腹をすかせてかわいそうなことはかわいそうなのですが、それで死ぬことを含めて、森や動物たちはそれぞれの種や個体数を保っているわけです。
(参考記事:絵本「どんぐりかいぎ」で学ぶ熊森ドングリ運びの問題点


「クマは怖い動物か?」感情論と解決策の有無

ヒグマ(に限らずツキノワグマも)がお腹をすかせている、という話になると、必ず「人間が森を破壊したからだ」「悪いのは人間だ」という主張をされる方が出てきます。大元を辿れば、開発行為など、人間が生きてゆくための行動が動物に影響を与えていることは間違いないと言えるでしょう。そういう意味で、「人間が悪い」というのは当たり前なのです。
しかし、「人間が悪い」「クマに罪はない」からといって、住宅街をうろつくヒグマを野放しにしておけるでしょうか? 特にヒグマは、過去に人間を襲って食べてしまう、という恐ろしい事件を何度も起こしている種です。動物の性格には個体差がありますから全てのヒグマが凶暴であるとは思いませんが、そうでなくとも、2m、100kg以上もあるような人間よりもずっと大きな動物が街をうろついていたら、恐ろしいと思わないほうがおかしい、と僕は感じます。
もちろん、かわいいとか、愛らしい面だってたくさんあるのですよ。檻の向こうにいる子グマを見たら、僕だって頬が緩みます。そうではなくて、自分たちの住んでいる街の、家のすぐ近くにヒグマが出てきて、いつ遭うかも知れない。そんな状況で「怖くない、恐ろしい動物ではない」なんて言えるとしたら、命知らずか、想像力がないかのどちらかでしょう。


実際、ヒグマについては、人間を積極的に襲って死者が出ている事故が、過去に何件も発生しているのです。*1
参考:三毛別羆事件
福岡大ワンゲル部・ヒグマ襲撃事件


そんな折り、twitterでこんな発言を見かけて、僕は開いた口がふさがらなくなりました。

ヒグマも決して危険な恐ろしい動物ではない。決して人喰い熊ではないのです。どうにかしたいですね。今年殺され続ければ、絶滅するでしょう(涙)

発言元は伏せますが、鹿児島の方とのことで、クマのいない九州の方に「ヒグマは決して恐ろしい動物ではない」と断言されてしまった僕はどんな顔をしていいのかわからなくなりました。
「射殺される動物がかわいそう」と主張される方は、決して少なくありません。その感情自体は決して否定されるものではありませんが、僕が見てきた多くの場合、その主張は「かわいそう」止まりで、「今、実際にヒグマに恐怖を感じている方はどうすればいいのか」について、全く述べることがないのですね。感情は確かに大切なものですが、実際に生じている問題に対しての解決策を述べることなく「かわいそうだ」と思考停止していては、問題の解決に繋がらないと僕は感じます。
(参考記事:「クマがかわいそうだから殺さないで」と感じる皆さんへ
また、ヒグマの現在の個体数は1,771〜3,628頭(中央値2,700頭)と推定されており、しかも「自然条件化で個体数が減少していない」とされています。人里に出没した個体を捕殺した程度では、絶滅する可能性は限りなく低いと言えます。


このヒグマ出没に関しては、ツキノワグマの保護活動と称して山にドングリをまく活動をしている「日本熊森協会」も公式ブログで見解を発表しました。あまりに北海道のヒグマ認識としてお粗末であるばかりでなく、道民への明らかな侮辱が含まれていると感じたため、続編エントリで指摘します。
熊森協会「ヒグマを殺せばいいという道民は野蛮」←道民は怒っていい

熊森さんは、「お金や力は使わずに罠をかけて次々と捕まえて殺してしまえばいい」のが「北海道の大勢」で、それは「あまりの残酷さ」「野蛮すぎる」と主張しているわけです。しかも、電気柵による防除は既にあちこちで実施されているし、大勢の道民が「捕まえて殺してしまえばいい」と思っているなんて根拠はどこにもありません。

「道民の中から〜声も入っています」「だそうで」なんて誰から聞いたかわかりませんが、公式ブログに書いている以上、主張を受け取ります。これが道民に対する侮辱でなくてなんでしょう?

11.10.10 21:00 誤字を修正しました
11.10.11 0:55 アクセス数が多いため、ヒグマ出没に関して市民ができる対策について冒頭に追記しました。

*1:過去に人間を襲っている事件がある≠人間を襲う習性がある です。あくまで、死亡事故の事例がある動物であり、恐ろしいと感じるだけの一面は確かに存在する、ということです。

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