紺色のひと

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海鳥とネコの楽園、北海道・天売島でオロローン!

北海道北部・羽幌町の沖に浮かぶ二つの島、天売(てうり)と焼尻(やぎしり)。天売島は海鳥の繁殖地として利用されており、近年減少傾向にあるウミガラス、通称オロロン鳥の数少ない繁殖地としても知られている。7月・海の日の連休に、海鳥と島に暮らすネコたちに会いに行ってきた。


はじめに妻の言葉があった。「海の日は島に行こう!」島は日本海とともにあった。「オロロン鳥見たい!」
道民が気軽に訪れることのできる島とは、日本海の南から数えて奥尻島、天売・焼尻、そして利尻・礼文の五つである。偶然にも僕と妻は子供の頃、それぞれ家族旅行で天売島を訪れたことがあった。大人になってからもう一度行ってみたらどうだろう、ということで、今回の行き先が決まった。
折りしも天売島では、6月下旬から7月中旬にかけて海鳥ウトウの集団帰巣が観察できるという。その規模たるや60万羽、なんと世界一! 以前見た5万羽近いマガンのねぐら入りもすごい迫力だったけれど、60万なんて想像もつかない。なんてったって、ギニュー特戦隊の皆さんとフリーザさんくらいの差があるのだし。ともかく、僕は期待と望遠レンズ(知人に借りた)を胸に抱えて、北へ向かう長距離バスへ乗り込んだのである。


天売島へGO!

天売島は、北海道羽幌町の沖合い27kmに浮かぶ島だ。島全体が海鳥の繁殖地として天然記念物に指定されているほか、暑寒別天売焼尻国定公園の区域内でもある。

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札幌から羽幌行きのバスに乗る際、目についたポスターが。そう! この路線はごく一部で話題になった萌えっ子フリー切符の適用範囲なのだ! さすがに往復するだけだったので切符は買わなかったけれど、「絶景領域へようこそ」ってコピーは嫌いじゃない。
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羽幌のフェリー乗り場に屹立するは、巨大オロロン鳥の像。ちょっとヒくほどでかい。



一時間ほどで焼尻島へ、そこからさらに30分、天売島へ上陸。宿のおばちゃんに迎えにきてもらった。聞くところによると、島を一周する観光船は今年は休業しており出ていないとのこと。とても残念だったが仕方がない、ウトウの観察ツアーをターミナル横の窓口で申し込み、おばちゃんに連れられ宿へ。

と、さっそく第一島ネコ発見。聞けば、やっぱりネコは多いんだ、とのこと。漁業の島だし無理もないとは思うけれど、島の観光は海鳥で成り立っている面もあり、あまりネコについていい印象を抱いてはいない様子。岩合さんも写真集「ニッポンの猫」でそんなこと書いてたな。

「写真撮って何すんのさ」と聞かれ、「雑誌に載せます」と答えると、それまでの優しい顔が急変した。ここ数年来、島は猫で大騒ぎになっているらしい。聞くところによると猫が島の貴重な海鳥のヒナや卵を食べてしまう。だから島に猫はいらない、というのが大方の意見らしい。



荷物を置いて漁港を散歩。見慣れない地味な海鳥を発見。海カモ類でもないし、図鑑にも載ってないし、なんだろう。後ほどガイドのお兄さんに聞いたらウトウの幼鳥とのこと。これは幸先がいいぞ!




ちょっと早めの晩御飯では、甘エビと真イカの刺身、つぶ、つぶのウニ和え、生ウニ、クロガシラ(カレイ)の煮付けなどなどが出た。




曇り空の夕方。宿までバスをまわしてもらう。大きな目的のひとつ、ウトウ観察ツアーに出発。写真は島の北側で見える利尻島・利尻富士。




ウトウという鳥は陸の土に穴を掘り、その中で産卵・ヒナを育てる。親は日中海へ出ていて、日暮れ頃に餌の小魚をくわえて繁殖地に一斉に戻って来る。「現在使っている穴の数を数えるとおよそ30万個、それぞれにつがいがいると仮定すると、およそ60万羽がこの天売島を繁殖地に利用していることになります。これは世界一の規模です」ガイドの若いお姉さんが教えてくれた。
繁殖に使っている穴はどうやって見分けるのだろうと思っていたら、「日中ウトウが出払っている隙に、すべての穴の入り口に竹串を立て、倒れているものを数えた」とのこと。木下藤吉郎秀吉的というか、部屋に誰か入ったか知りたがる新世界の神的というか、アナログだけど面白い。

7月の半ばはヒナがだんだん大きくなって巣立ち前の時期にあたるという。餌をくわえて来ない親も多いのは、ヒナに巣立ちを促すため。漁港に居た幼鳥は、既に巣から自分で這い出て、島のまわりをぐるっと泳いで漁港にたどり着いたらしい。たいした奴だ…。



説明を聞いているうちに、繁殖地へ到着。あたりは既に薄暗い。黄昏の空の下、頭上を弾丸のように飛び交う無数の影が!



これが! ウトウの! 集団帰巣か! うおー! 口にくわえた小魚狙いのウミネコちゃんたちがギャアギャア騒いですごくうるさい! そして暗くてぜんぜん写真撮れない!



転げるように着地し、そそくさと巣の中へ入ってゆくやつがいるかと思えば、地面に降りたあとものんびりとそこらをうろついているやつもいる。夜の鳥にあまり強いストロボを当てるのもかわいそうなので、設定を弱めにして、ちょっと失礼。

あまり時間が遅くなると、帰巣してくる群れに影響を与えてしまうかも、ということでツアーは一時間ほどで終了。うーむ、もっと撮りたい。欲求不満ではあるけれど、この日は宿に戻り、ゆっくりと寝た。


二日目、島内散策!

翌朝、天候は雨。朝から塩ウニとタコのお刺身を食べ、島内散策に出発!


茶トラ。



最初のフェリーが着く頃で、お土産やさんも開店し始めた。「さよならテープ」なんて初めて見たぞ。売店でお昼ご飯用にパンを買ったらチョコレートをつけてくれた。



と、道端でウトウの死骸を発見。頭がない。これが猫の仕業か、確かにこの相反する要素の扱いは難しいだろう。



雨のカワラヒワ。



海が見えるところでは欠かさず海鳥探し。ウミウとウトウに混じって、ケイマフリの姿も。もっと近くで撮りたいな。ウミウはでかくて格好いい!



天売島では、数が著しく減少したオロロン鳥の繁殖をなんとか成功させるべく、「ここで繁殖できますよー」「仲間もいますよー」というのを彼らにアピールする作戦をとった。どうしたのかというと、オロロン鳥そっくりの置物(デコイ)を岩棚に設置し、テープで声を流したのである。果たして作戦は成功し、継続的に繁殖が行われるようになった。ここは今では使われていないけれど、過去に繁殖が成功した場所。デコイが見える。僕が子供の頃に船から見て、大騒ぎしたあのデコイ。




ノゴマちゃん。喉元のオレンジがあざやか。



地味だけど自己主張の強い顔つき、アリスイちゃん。



昨日のツアーで訪れた繁殖地に、今度は徒歩で近づく。道端に穴が増えてくる。黒猫が前を横切る。赤茶色の土に開くウトウの巣穴。そして海のなんと美しいこと! さっきまで雨が降っていたのにこの透明度は驚きだ。


ウミウが潜ったあとも、水中を泳いでいるのがわかるくらい。



……おや? カモメの向こうに見えるあの二人連れは……?



間違いない! オロロン鳥だ! ウミガラスだ! やっと見つけた!二羽で仲良くお散歩中か。今年は7つがいほどが繁殖に成功しているとのことだけれど、まだヒナに餌を運んでいる時期だろうから、こいつらは今年繁殖しなかったつがいなのかも。

やたら足のオレンジが目立つ鳥も写っているな。



あのピングーを髣髴とさせる顔面はケイマフリだ! かわいい!



カモメの見分け方。メジャーな二種類、足が黄色いのがウミネコちゃん、赤いのがオオセグロカモメちゃん。



どちらも子育て真っ最中。「飛べっ! 飛ぶんだ!」




トイレの注意書きに「ウトウが入ります」と書いてあるのは多分世界中でここだけだろう。



あ、カナヘビだ。妻は両生爬虫類大好き。きゃあきゃあ言ってつかまえている。



下り坂の帰り道、デコイをあちこちで見かける。きっと民家の庭先でも繁殖が行われていたんだ!

……ってんな訳はない。なんだろう、デコイが余って島民に配った過去とかがあるのかな。



物憂げな午後である。


ウトウの集団帰巣にリベンジ!

徒歩で一周して、ちょっとくたびれた。しかし天気が良いので、妻を宿に置いて、昨晩のリベンジを果たすべくレンタルスクーターで再びウトウ繁殖地へ向かうことに。すごい空の開放感。



見下ろす海の色。



海上にたくさんゴマツブが浮いている。双眼鏡で見たら、帰巣のタイミングを待っているウトウだった。



6時20分、一羽目が飛んだ。しばらく音沙汰がなかったが、激しい羽音ともに押し寄せるように帰巣を始めた。たまに餌をくわえたお父さんお母さんも見かける。



バスのツアー客も到着。頭上を飛び交う群れ! 群れ! どちらを向いてもおびただしい数のウトウが行き来している。彼らの口元を狙うウミネコの叫び声、羽音。



日が沈んでからが本番! …なのだが、とても追いきれない。


ピントも合わなくなってきたので、マニュアルフォーカス・カメラ任せのストロボ設定に切り替えて、画角に収めることだけに専念する。

気づいたら辺りは真っ暗で、バス客も帰ってしまっていた。僕と海とウトウとウミネコだけ。スクーターのエンジンをかけても道路から逃げないので、轢かないように気をつけて出発。





宿に帰って、夜のもうひとつのお楽しみ。そう、夏の海と言えば夜釣りである! 荷物を増やしたくなかったので、羽幌の釣具屋さんで糸と西田式ブラー(餌つきルアーみたいなもの)を購入しておいたのだ。いそいそと準備をする僕を、妻は怪訝な顔で眺めている。
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宿の前の漁港で、するすると糸をリリースして、餌を底につけて、ちょちょい、ちょちょいっと。ほれっ! どうだ! 妻まいったか!
一時間ほどで、ガヤ(メバルの仲間)やソイの仲間など、計8匹、弱らないうちに逃がした。
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森の島、焼尻島へ。

翌朝、三日目。早くに目を覚ましたので、朝釣りついでに散歩に。


朝帰りのウトウと、眠そうな猫たち。



笑い飯のネタ「奈良県立歴史民族博物館」よろしく、「パパパーパパーパパーパパーパーパー…」と腕だけを動かすのがコツである。



朝ごはんを食べて、チェックアウト。おばちゃん、お世話になりました。切符を買おうと入ったフェリー乗り場の剥製、目が怖い。



いちおう観光旅行だし、きちんと記念写真を撮っておかなければ。セルフタイマー5回目でなんとか成功。「荒ぶる鷹のポーズ」もなかなか堂に入ってきた気がする。




高速船で天売島を離れる。そして隣島の焼尻島で下船。あまり時間もないけど、荷物を預けてちょっと散策しよう。
「羊が見れるよ! サフォーォオオーク!」と突如妻のテンションが上がる。



突如現れたトーテムポール。なんでもなんとかマクドナルドさんの上陸記念の地らしいが、白人の上陸した場所のポールに赤鬼を彫るのはどうなの…。電気ネズミっぽいのもいるし…。



霧の中から突如現れた放牧地。別にこの島はなんでも突如現れる訳ではない。そして、正直なところ僕は、羊を見てあまり可愛いと思ったことがない。



天売島を野鳥の島とするなら、焼尻島は森の島。天売が早くに拓かれたのに対し、こちらでは森林が濃く残っていて、オンコ(イチイ)やミズナラ林が多く見られる。



強い日差しも木々の下なら気持ち良いね。



イチイの木が広がって、樹冠の中が空洞になった「オンコの荘」。間違いなくこの島のsecret baseだ。ちょっとおセンチな気分で島を離れる。



オロローン! まとめ

こうして僕たちの二泊三日島ツアーは鳥と猫まみれで終わったのであった。ウトウの集団帰巣は鳥に特段興味のない妻でも楽しめるほどのスケールなので、訪れる際はぜひ6月〜7月のシーズンに合わせることをおすすめする。また7月末には「天売ウニ祭り」が開催され、島の海産物の直売なども行われるとのこと。
海鳥観察がメインの方は、羽幌町のフェリー乗り場で天売・焼尻両島の地図や野鳥図鑑などのパンフレットを入手しておくとよい。情報がとても充実しているので参考になった。

また、天売島在住の写真家・寺沢孝毅氏の写真集が何冊が出ているので、興味の有る方はぜひ。

寒流が結ぶ生命―北海道からベーリング海 寺沢孝毅写真集 (BIRDERスペシャル)

寒流が結ぶ生命―北海道からベーリング海 寺沢孝毅写真集 (BIRDERスペシャル)

海と鳥と光のうた―『小さな地球』天売島〈vol.1〉 (『小さな地球』天売島 (Vol.1))

海と鳥と光のうた―『小さな地球』天売島〈vol.1〉 (『小さな地球』天売島 (Vol.1))