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紺色のひと

思考整理とか表現とか環境について、自分のために考える。サイドバー「このブログについて」をご参照ください

森ガールにとっての『森』を考える〜「もし森」補足として

ガール


もし森ガールがゆるゆるファッションで実際に『森』へ入ったら」の企画を思いついた理由のひとつである「森ガールにとっての森とは何か」について、野暮を承知で考えてみました。また、前エントリではひどすぎて使えなかった没写真と補足説明を付したおまけ的あとがきを書きました。


嬉しいことに、前エントリ「もし森」は大変ご好評をいただき、はてブ、twitterを中心に数多くのコメントを頂戴しました。この反響の原因が「森ガールにとっての森と周囲一般にとっての森のイメージの食い違い」にあると睨んだ僕は、双方にとっての森とは何か、分析を試みました。

森ガールにとっての『森』像

森ガールの定義から考える

Yahoo!辞典の「新語探検」には、森ガールについて次のように記述されています。

ソーシャルネットワーキングサービスのミクシィで話題を集めている「森にいそうな女の子」についてのコミュニティ。森にいたら似合いそうな女の子について50を超す条件が示されているが、それらは「ゆるい」、「ゆったりとした」といったものが多い。たとえば「ゆるい感じのワンピースが好き」、「ニットやファーで、もこもこした帽子が好き」、「古いものに魅力を感じる」、「カメラ片手に散歩をするのが好き」といったもので、「美しい」や「きれい」というよりも「かわいい」ということに価値観が置かれている。「森ガール」コミュニティの管理人が、友人から「森にいそうな格好だね」といわれたことから始まったという。
http://dic.yahoo.co.jp/newword?ref=1&p=%E6%A3%AE%E3%82%AC%E3%83%BC%E3%83%AB&index=2008000476

森ガールの属性についてはmixiコミュニティ(ソーシャル・ネットワーキング サービス [mixi(ミクシィ)])が詳しいですが、よく読むとこれといった定義が存在しないことがわかります。”森”ガールと呼ばれている所以は、提唱者である森ガールコミュニティの管理人さんがご友人に「森にいそうだね」と言われたことに端を発しています。
ここで重要になってくるのは、この森が「どこのどのような森なのか」そして「『森にいそう』とはどのような状態を指しているか」の2点です。

森ガールの森とはどこのどのような森なのか

この疑問に答えるため、既存の森ガールっぽいイメージの写真と、彼女らのキーワードのひとつである北欧の樹林を比較検証してみることにしました。北欧については、上記mixiコミュニティに「*いつか北欧にいきたい」という項目があることから、憧れの地であると判断しました。
森ガール流行の初期に発行された「別冊spoon.2009年03月号」P30から、蒼井優をモデルとした写真を引用します。

この写真の背後の樹林を見てみましょう。季節は晩秋、林床に積もる葉はカシワを中心とした落葉広葉樹と思われます。葉の落ちたこれら広葉樹がまばらに立つ他、一部に常緑針葉樹が見られます。
「森」としてこの写真を見たとき感じるのは、ひとつが立木密度*1の低さ、そして林床植生*2の貧弱さ、さらに林内の明るさです。これらの特徴は、自然条件下では特殊な場合――例えばシカの食害などによって林床植生が貧弱になった林――を除いてあまり見ることが出来ないものです。


次に、「森ガールっぽいイメージ」が形成される一因であると思われるキーワード、北欧の森林について考えてみましょう。フィンランドの樹林植生についての記述を引用します。

フィンランドの国土のほとんどが北方針葉樹林帯(タイガ)に属し、日本と比較しますと森林を構成している樹種は非常に限られています。アカマツ、トウヒ、シラカバが主要な構成樹種で、場所によってはナナカマド、ヤマナラシ、ヤナギ類、ネズノキ、ハンノキ、ナラ、カエデ、ニレ、エゾノウワミズザクラなども見られます。林内の下層植生が貧弱なため、障害物となる植物をほとんど気にせず、快適なレクリエーションを楽しむことができます。
花いっぱい.com

例えばこんな感じの。

日本国内(特に関東以南)の森林と比べると、「針葉樹が多く林内が明るい」「歩きやすい」などの特徴があるようですね。東北・北海道の森林と似ているとも言えます*3


先に引用した写真を日本国内で撮影しようとすると、本州の雑木林に近い環境、つまりある程度人の手が入った状態の林で撮影されたものと考えられます。
どうやら森ガールにとっての森は”場所がどこで樹種はどうこう”といった記述ではなく、「明るい」「立ち入りやすそう」「親しみやすい」「動物や妖精がいそう」などのイメージから形成されていると考えてよさそうです。特に明るいというのはイメージとして非常に重要です。これについては後述します。


「森にいそう」とは

「森にいそう」。居る、という状態に至るには様々なプロセスが必要ですが、そこにただ居るということを指す場合、「(前述のイメージとしての)森に似合いそう」という言い換えが可能と考えます。つまり、元から森の中に立ち入ったり、ましてや作業することを目的としている服装だと言っているのではないのです。彼女らは、森と舞台とした物語に魅せられ、愛するその雰囲気をライフスタイルとして昇華し、ファッションとして体現しているのです。
そういう意味からも、実は「もし森」は最初から論点がズレているのですよね。彼女らの服装を、その場に適していないとする指摘自体がナンセンスな訳です。他方、森というネーミングを冠している以上、抱かれるイメージに齟齬は発生するだろうな、とも思ったことが、ズレを自覚した上でのエントリ作成動機なのでした。


さて、「森に対するイメージの食い違い」とは、どこそこの森だ、という地理的条件から来るイメージだけでなく、森という日本語に対するイメージの食い違いからも発生しているのではないか、と僕はにらみました。


非・森ガールにとっての『森』像

日本語的「森」とは

「あなたにとって森とはなんですか?」「森と聞いてなにを思い浮かべますか?」という問いは、答えるのが難しいだけでなく、ある一定の回答を期待するのも困難です。それは、地理的条件によってその様相を変える森林が個々人にとってまったく別のものである、という理由の他に、日本語としての「森」が非常に広い意味とイメージを持つからです。
大辞林 第二版では「森」を『樹木が多くこんもりと生い茂っている所』としています。しかし、森という言葉から、僕たちはなにか他のイメージを連想したりしはしないでしょうか。暗いとか、怖いとか、畏れとか、どこか怖ろしいものに対するイメージはないでしょうか。
日本は国土の約7割が森林であり、また同じく7割程度が山地です。ご先祖さまは山地から流れ出る川の周りの扇状地と、山地に広がる森林を伐採して生活の場としてきた歴史があります。日本においては山と森に大きな差はなく、山や森は日常から一歩分け入った、ひとつの異界として存在してきました。山岳信仰もそのひとつの顕れと言えるかも知れません。

古代の日本では、世界は人々が毎日を暮らす現実世界「ウツシヨ(現世、またはこの世)」と、永遠に変わらない、神や死者の世界「トコヨ(常世・常夜、またはあの世)」で成っていると考えられていました。興味深いことに「トコヨ」「あの世」は山の彼方や、海の彼方などにあるとされていて、大きな自然を「人知を越える境界」として怖れ敬っていた、と想像することができます。
日本の森と神さま:2.日本人と森:森学ベーシック|私の森.jp 〜森と暮らしと心をつなぐ〜

里から一歩から立ち入ると、鬱蒼と茂る下草やからまる蔦、昼でも暗い林内と湿って濁る空気。どこか陰鬱とした雰囲気を漂わせるのも、日本の森のひとつの一面です。ひとが嫌う虫やクモ、ヘビの類もたくさん生息しています。僕たちの生活の場がだんだんと都会に移るにつれ、森の持つ負の印象がだんだんと浮き彫りになっていてもおかしくはないのではないでしょうか。

一種の神々しささえ漂わせるこの日本的森ボーイ。霧の中、僕が道に迷っていたときに突然現れた男性でした*4

「森ガール的森」と「日本語的森」のイメージの乖離

以上のことから、日本語としての「森」に対し負の印象があることが、「森ガール的森」のイメージとの間に決定的なギャップを生じさせている原因だと僕は考えます。さらに、森ガールとされる服装が、あまりに日本語的森に適合する服装とかけ離れていたため、「そんな服装じゃ森に入れねぇよ!」というツッコミを生む元となったのです。

まとめ

「もし森」への反応で僕が得た印象をまとめると、次の2点です。

  • 「日本語的森」と「森ガール的森」にはイメージ・実像ともに大きな差があるが、『森』という語の共通項から(特に日本語的森のイメージを抱くひとからの)齟齬が生じている。
  • ファッションとしての「森ガール」が独り歩きするあまり、本来森に入るための服装ではない森ガールに対し、(日本語的)森に不適との指摘が入ってしまっている。


まとめと言いつつ本心を書くと、ですね。
僕は森ガールが好きなんです。今もムーミンシリーズを読み返す愛読者ですし、森に対する明るいイメージや独特の雰囲気を好み、それをファッションに昇華させているのは本当に素晴らしいと思います。そして同時に、日本語的森も大好きなんです。民話の類や土地土地の言い伝えからみる森の怪しさや森に対する敬意、立ち入ると厳しく、また爽やかな面を見せる日本の森が大好きなんです。「もし森」では敢えて対立構造として両者を扱いましたが、それはどちらも好きだから、両者の間に生じているギャップが目に付いて、ツッコミを入れてみたくなったから――で、森ガールを蔑んだりする意図はまったくないんです。記述力のなさを言い訳しているように聞こえると思いますが、ご理解いただければ嬉しいです。
多くの方から「ずっと思っていたことをやってくれた!」とコメントをいただきました。ありがとうございます、笑っていただいて嬉しいです。どうか、そのイメージのギャップが自分の中で生じているものだと改めて自覚して欲しい。森ガールのファッションを、自分の好み以外で哂う資格は誰にもないと、僕はそう思います。ネーミングがちょっとキャッチーで、ハマりすぎていただけだと。


「不自然な森ガール」〜後日談と没写真

最後に、エントリの後日談と補足説明、没写真を紹介します。

ターシャ・テューダーと森ガールのファッション有用性

twitterで指摘された興味深い論点を紹介します。ターシャ・テューダーさんと森ガールの関連性についてです。
ガーデニングのカリスマ的存在、ターシャ・テューダーさんは、庭作業のときもずっとロングスカートを履いていることで知られているとのことです。森ガールのすべてが意識しているかはともかく、彼女のファッションスタイルは森ガール的であり*5、なによりターシャさんは森ガールの必携書であるソロー「ウォールデン・森の生活」の体現者なのです。現在の森ガールが有形無形の影響を受けていると考えてもよさそうです。

ターシャの庭

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ちなみに、スカートと森仕事について、僕の体験談を。
たとえスカートでも、靴と靴下さえしっかり履いていれば森林内での作業は可能である、というのが僕の結論です。ただし条件がいくつかあって、ひとつが「林床植生の乏しい林内であること」――つまりササや藪の茂る日本の森ではなく、北海道の一部や北欧に見られる森であること――、そして汚れることを厭わないこと、です。森ガール的森林であれば、作業そのものに大きな制約はありませんでした。汚れや破れを含めたファッションの不可侵さを強く求める場合には、森ガールが着のまま森で作業することはやはり困難なのです。


僕のダメージ

ファッションへのダメージについては「もし森」の通りで、森ガールファッションはぼろぼろになってしまいました。そして、僕の体には以下のようなダメージがありました。
まず、切り倒したヌルデの樹液で、露出した右腕がかぶれました。幸いひどくはなく、3日ほどで消えました。撮影当日の気候(快晴無風33℃)のせいか、虫刺されはほとんどありませんでした(撮影を担当してくれた妻のほうがたくさん刺されて辛そうだったのが心残りです)。また肌が露出した部分には草いきれや細かい切り傷がたくさん生じ、左足には十字傷が出来てしまったでござるよおろろ〜。

森ガールファッションの準備

撮影に用いた服と小道具は、主に古着と通販を利用して準備しました。レースのカーディガンと花柄スカートは妻のお古(いずれもサイズや染み等の理由で捨てることになっていたもの)、ボレロとかごバッグは古着屋(それぞれ300円と500円)、パンプスとワンピースのみニッセンで購入しました(2000円前後)。ぼろぼろになることがわかっていたので、本当はすべて古着等で揃えたかったのですが、いかんせん身長のある男性の身のこと、一部は購入せざるを得ませんでした。服には申し訳ないことを。


撮影の許可と伐採について

複数の方から指摘を受けたので、明記しておきます。
撮影は土地管理者および所有者の了解の元で行いました。また、伐採を伴う撮影は私有地で行い、土地所有者の許可を得た上で実施しました。
土地管理上、樹木の伐採を行う必要性は必ず生じます。「木を伐る」ことに対して、やや過剰な反応がごく一部で見られましたが、伐ってもよい木、伐らなければいけない木、伐らないほうがよい木など、樹木の伐採も種類や土地利用などによってその必要性は大きく変わります。ご理解いただければ嬉しいです。なお「もし森」で伐採した土地は、所有者が完全に開墾して農地にしたいと希望していたため、そのお手伝いをさせていただいた……という立ち位置です。


森と林と山

「森ガールじゃなくて山ガールでは?」「むしろ林ガール」など、森と山と林の定義に関するコメントも多く見られました。一連のエントリでは、森と山をほぼ同一のものとして扱っています。林についても同様ですが、農林水産省の定義によると、人間が人工的に植えたものは林、そうでないものは森とされているようです※明確な根拠が見つからなかったため削除しました。混乱させて申し訳ありません※ また樹林、山林という言葉もあり、明確な定義づけが困難なこと、そして日本の土地利用・構成から見ても、この三つの語に大きな差はないと考えられることから、大きな区別をせず使用しました。
ちなみに最近話題になりつつある「山ガール」という言葉ですが、「山ガール」にとっての「山」は『(低山行や縦走をするための)登山道』であると考えてほぼ間違いないと感じています。比較的整備された上り坂を頂上に向かって歩くことに特化し、さらにおしゃれ心を加えたファッションスタイルとでも言い換えればよいでしょうか。


キャンストップフィーリン! 不自然な森ガール!

エントリのヒロインであり主人公のみやまちゃん。彼女には「惚れた」「俺の嫁」「かわいい! 結婚したい!」「マジホラー」「朝からひどいものを見た」など数々の応援メッセージが寄せられました。「ありがとうございます!」とのことで、撮影当日のみやまちゃんの秘蔵写真をお蔵出し!


撮影途中のひとコマ。散策に出かけていた森林整備ガール・O女史を見つけたみやまちゃん。オカマ走りで駆け寄ります。みやまちゃんの頭髪が地毛だと思われていた方が散見されましたが、ご覧の有様だよ! ちなみにO女史は当日、夏だというのにハイネックのシャツ、長袖長ズボンの作業服でした。大変硬派な日本的森ガールと言えましょう。



チェーンソーに続く大量破壊兵器にちょうせん!*6



森ガールたるもの、アンダーウェアにもこだわります。ノンワイヤーのナチュラル下着、愛用のふんどしです! 綿100%だから汗も吸うし肌荒れ対策にもなります(紐の食い込みが気になりますが)。「あそびじゃねえんだ」の猫のイラスト、遊び心のワンポイントがかわいらしいですね。



あまりに凄惨過ぎて載せられなかった一枚。「きょうはちょっとみなさんに、かいこんをしてもらいます☆」



id:MI_CHIさんが、みやまちゃんをレタッチしてくれました! こ、これは…!



おまけ

ブクマ等でご紹介いただいたフィンランドのメタルバンド、コルピクラーニ。フィドルの方が出てきたときは森に亡命中のラスプーチンかと思いました。これは…森ィぜ!


それではみなさん、よい森の生活を!

*1:面積あたりの樹木本数から算出する「どれだけ混んでいるか」の指標

*2:木々の下に生育する草を中心とした植物の群落

*3:が、国内の樹林は一度伐採された後に再生した二次林が多いため、林内にササが多く侵入しており、歩きやすいかについてを共通点として挙げるのは不適でしょう

*4:大学での野外実習中、林道から外れたチームを探しに来た教授の図

*5:あくまで森ガールとして彼女を見た場合、という意味です

*6:バックホーは運転に車輌系建設機械の技能講習が必要です。みやまちゃんは撮影のため、エンジンを切った状態で運転席に座らせてもらったのみです。念の為。

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