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紺色のひと

思考整理とか表現とか環境について、自分のために考える。サイドバー「このブログについて」をご参照ください

マンガにみる少林寺拳法

日本に武道は数あれど、少林寺拳法は知名度・競技人口の割に実態が知られていないものの代表、と言い切っていいでしょう。コバヤシ流、と言われたり、中国は少林拳と同一視されたり、その名称から誤解が多数あります。こういった「少林寺拳法とはなにか?」みたいなことはwikipedia(少林寺拳法 - Wikipedia)や本部のサイト(http://www.shorinjikempo.or.jp/about/index.html)に任せることにして、本エントリでは、僕たちが日常的に武道や格闘技に触れるひとつの媒体であるマンガにおいて、少林寺拳法がどのように取り上げられているのかについて見てみようと思います。
少林寺拳法の技法の特色と言えば、剛柔一体(打撃技と投げ極め固めが一体となっていること)、守主攻従(まず守り、そして攻めに転じる「防御>攻撃」の価値観)、飛燕連攻(素早い連撃)、そして目潰しや急所攻撃がある……ことなど。
こういった特色がどのようにマンガに反映されているのでしょうか。

※以下、特に記述がない限り、少林寺拳法を”少林寺”と略して書きます(現在、この略称は好ましくないものとされていますが、クドくなるのでご了承ください)。


マンガに出てくる少林寺拳法家

「少林寺拳法(およびそれをモデルにしていると思われる拳法)を使うキャラクター」に絞り紹介していきます。

『バキ』にみる少林寺

まずは有名どころ、板垣恵介氏の『グラップラー刃牙』『BAKI』から3名。

グラップラー刃牙 (18) (少年チャンピオン・コミックス)

グラップラー刃牙 (18) (少年チャンピオン・コミックス)

  • 小林流拳法 知念さん


トップバッターは、小林流拳法の使い手、知念さん。

流派の名前からして既にパチモン感ありありですが、その構えや自らの突きの速さを”飛燕”と称するところなど、少林寺らしいポイントをしっかりと押さえているキャラクターです。ちなみに道場の中の額に書かれた「拳禅一如」は、”拳(肉体)と禅(心)は分かつことのできないもの(一如)であり、お互いを高めあうのが重要だ”という少林寺の教えです。




グラップラー刃牙 (24) (少年チャンピオン・コミックス)

グラップラー刃牙 (24) (少年チャンピオン・コミックス)

  • 少林寺拳法 三崎健吾

続いての登場は少林寺拳法、三崎健吾。

知念さんと異なり、彼は紛いもなく「少林寺拳法の使い手」として登場します。マンガの中で使う技も、目打ち(手の甲による目潰し)・固め技・急所攻め・投げ技など実際に少林寺に伝わるものに酷似したものばかり。




マンガの中でも「キレイな戦い」「よく組み立てられた完成度の高い技術体系」と称され、作者のこだわりが見て取れます。
ちなみに彼が着ているのは法衣といって、少林寺では高段者が行事のとき等に着るものです。




バキ―NEW GRAPPLER BAKI (No.24) (少年チャンピオン・コミックス)

バキ―NEW GRAPPLER BAKI (No.24) (少年チャンピオン・コミックス)

  • 日本空拳道 寂海王

3人目は空拳道の使い手、寂さん。

おや? このメガネやヒゲにはどこかで見覚えが…?
(引用は光文社「秘伝 少林寺拳法」より)
そうかこのひとだ! 彼こそは少林寺拳法の創始者、宗道臣。少林寺拳士からは開祖と呼ばれています。創始者のルックスをそのまんまモデルにするとは板垣氏もわかってらっしゃる。
さて、この寂さん。拳法家のアイデンティティである戦い方とは別のところで、非常にキャラが立っています。



それは「格闘マンガ内でありながら教育者としての一面が強調されている」こと。彼のモデルとなった開祖も、戦後日本の若者を導くために少林寺拳法を創設した、とその著書で語っています。技法を強くキャラクターに反映したのが三崎健吾なら、寂さんには少林寺の精神性が反映されていると言ってもいいでしょう。
一方、技はというと、投げ技や固め、圧法(急所攻め)など、やはり「らしい」描写がなされています。


このように、板垣氏は作品中に少林寺をモデルにしたと思われるキャラクターを複数名登場させています。本人も経験者とのことで、細かな書き込みが印象的です。




『ホーリーランド』にみる少林寺

続いて、先日連載が終了した森恒二氏の『ホーリーランド』。本作はストリートファイトをテーマとしたマンガで、空手やボクシング、レスリングなどに対する作者独自のコメントが特徴的です。

ホーリーランド 18 (ジェッツコミックス)

ホーリーランド 18 (ジェッツコミックス)

  • 拳法使い キング

本作には夜の街をドラッグによって支配しようと企む大学生、通称「キング」が登場します。

当初は何の武術かも明かされていませんでしたが、空手家との立会いで、競技格闘技では使われることのない目打ち・金的*1を使用し、拳法使いであると看破されます。



本作では最後まで「少林寺拳法」の名前は出てきませんが、技法や枠外の解説からそうであると読み取ることができます。作者の森氏は連載終了後のインタビュー内で、少林寺の高段者と接した際、その技法に驚き、作中で登場させることにした――という趣旨のことを語っています*2
このキャラクターの精神性については少林寺の模範とされるものと遠くかけ離れていますが、典型的な悪役として描写されているのは逆に興味深いですね。



技法の描写としては、相手の突きをかわして中段に突き返すもの、相手の突きを受け、手首を逆に捻って投げるものなど、少林寺の特徴的な技法が見られます。ストリートファイトの”実践”でこれら技法が実現可能かどうかについては未だ議論が続いていますが、それはまた別のお話。





『天上天下』にみる少林寺

お次は大暮維人氏『天上天下』でのチョイ役です。

天上天下 第17巻 (ヤングジャンプコミックス)

天上天下 第17巻 (ヤングジャンプコミックス)

  • 沙林寺拳法部 阿羅漢 聖人

異能者を交えた格闘を描く流麗な画づくりに定評のある『天上天下』。学内の武道系部トーナメント大会に、沙林寺拳法(しょうりんじけんぽう)部が登場します。

少林寺界隈では、高校・大学生による学生拳士がある一定の割合を占めていますが、学生支部では彼が憂うように「武道オタク系」「中国少林寺好き」「運動不足解消」などが闊歩するサークルも見られます。いや、いい悪いとかではなくて、実感として…。





少林寺拳法をテーマとして扱ったマンガ

さて、ここまでは作品の中のキャラクターを取り上げてきました。実は、少ないながらも少林寺拳法そのものをテーマにした作品が存在します。
それがこれ。

  • 菊田洋之『オッス! 少林寺』

オッス!少林寺 1 (少年サンデーコミックス)

オッス!少林寺 1 (少年サンデーコミックス)

平成4年より少年サンデーコミックスで連載されたのが、この『オッス! 少林寺』。人気体操マンガ『ガンバ! Fly high』を連載する前の菊田氏による作品です。
さて、本作。中学でロックンローラーとして鳴らした主人公が高校の少林寺拳法部に入部するところから話がスタートします。
最初はきちんと少林寺をやっているのですが、

そのうちヤクザの事務所にカチ込んだり、

空手の大会に出場してアンディ・フグ(をモデルにした選手)のカカト落としを受け止めたりと、迷走していることこの上ありません。

そのうち異種格闘技大会に出場し、マーシャツアーツ・チームと戦ったり、レスリング対策に道着を脱いで試合に臨んだりします。少林寺と銘打っている割に、作中にあまり設定を活かしきれていない(ただの体育会系シゴキ部のような描写が多い)ような気がするのは、少林寺が持つ地味さに起因しているのでしょうか。後述します。


  • 谷上俊夫『少年拳士サスケ』

少林寺拳法の会報に連載されていた子供向けのマンガです。現役時代、僕も愛読していたのですが、去る2008年に急逝されたとのことです。ご冥福をお祈りいたします。合掌。



なぜマンガの中の少林寺拳法は地味なのか?

以上、並べてみると多いようですが、僕の知る限りを集めてもテーマ作品2つ(うち1つは会報)、モデルキャラは3作5名でした。国内150万人とも言われる競技人口と比較すると、決して多いとは言えない数字だと感じます。
では、なぜ少林寺はマンガに取り上げられないのか。答えは簡単で、地味だからです。もっと言えば技術体系にマンガ向きの派手さがないのですね(多林寺の僧のように気円斬を出したりする必要はないと思いますが)。また、教えとして「不殺活人」を銘打っていることもあり、あくまで人を活かすことを目的とした護身術。言い換えれば、少林寺の技法には必殺技が存在しないのです。相手をいかに倒すか、ということを描写しようとしたとき、このことはあまりに大きい。特徴的な技法である目打ちや金的は必殺と言えば必殺ですが、そもそも相手を怯ませるのが目的ですし、対戦では使いにくい描写になりそうです。
少林寺の名を冠してあまりはっちゃけた描き方をすると本部から注意されそうな雰囲気もあるし…。


また、格闘マンガには必須である「どっちが強いか戦って決める」類の大会が、少林寺にはないことも一因でしょう。前述の開祖の教えもあり、突き蹴り投げの技法でどっちが優れているか、ということをそもそも重視していないのです。誤解を恐れずに言えば、護身ができればよい、勝たなくても負けなければよい、他の誰よりも強い必要はない、という教えです。
では大会でなにをするのかというと、少林寺の大会では「演武」と呼ばれるものの完成度を競います。これは二人組による攻防を演じるものです。演武中に突きが当たれば痛いし、関節が決まれば痛いので必死なのですが、一部では演武の完成度を高めようとするあまり、それのみに稽古の時間を割いてしまう風潮もあり、「少林寺は踊ってるだけで使えない」と揶揄される一因になっています。
もちろん、組み手やスパーリングに相当する稽古もありますが、それはまた別の話。いずれにせよ、マンガとして描写するにはパンチに欠けるのは事実でしょう。




さて、少林寺をテーマにして描くには、こういった問題点を乗り越えてゆく必要がありそうです。そのためには、やはりある程度の経験を詰んだ描き手が、技法や理念を理解したうえで挑戦せざるを得ないのかも知れません。
もちろん、格闘マンガの描き手さんがすべて経験者だとは思いません。往年の名作「拳児」をオマージュするあまり作中の魔法使いや女子寮元管理人に八極拳を使わせたりする作者*3や、それを読んで「このひとは達人に違いない」と思う中学生も多くいるでしょう。少林寺に少しでも触れたことのある漫画家さんは少なくないのではないかと勝手に期待して、ステキな少林寺マンガ作品が世に生み出されることを願います。



おまけ

ここまで取り上げていませんでしたが、少林寺拳法と深い関わりのある大御所作家がいます。

これは30〜50代の方に一定の知名度を誇る、少林寺関連書籍では恐らくもっとも良く知られている本です。昭和38年初版、光文社のカッパブックス『秘伝 少林寺拳法』。作者は前述の宗道臣、挿絵はこの方!




「yan」のサインが光ります。誰かおわかりでしょうか。






…そう、この挿絵はやなせたかし氏。アンパンマン以外にもこんなところに仕事の軌跡が…!

*1:金的も独特の打ち方で描写されており、作者のアレンジが見られます。

*2:インタビュー:http://news.gabutto.com/story.php?id=233 (既にリンク切れで読むことができません)

*3:特にウラをとった訳ではないので僕の完全な思い込みですが、某赤松御大を指します。御大はむしろバーチャファイターの影響が大きいのでしょうか

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