紺色のひと

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冬の川、境、春の川

泥で真っ茶色になったブーツと雨具のズボンを川で洗った。こびりついた泥を砂でこそげ落とすように洗った。川は一昨日の雨で増水したきりで、水位が下がる気配はまったくなかったけれど、濁りはひいたようだった。水際の細かい砂を手のひらに掬い、ブーツの甲にこすり付けていると、水の冷たさですぐに右手の感覚がなくなった。僕は「ちょっとずつでもさ、いい男になれてんのか、おれは?」と口に出さずにはいられなかった。向かいの岸の林の奥からぐもうと牛の声がした。
橋の上から見えるものは、枯れた葦と泥、河畔の木の幹、それらを映した川面の、少しずつ濃さの違う茶色と、残雪の汚れた白ばかりだった。幾層かの茶と白くない白のコントラスト。寒々しい曇り空がそれに拍車をかけていた。
冷たい景色だったけれど、僕には春が近づいていることがわかった。
春の音がしたのだ。
雪が融けて減って、水のころころ流れる音を吸い込みきれないでいる。ゆるかやに渦巻く澪筋から生まれる流れの音が、冬の終わりを告げているのだった。春の川の音がする。
「ちょっとずつでもさ、いい男になれてんのか、おれは?」