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紺色のひと

思考整理とか表現とか環境について、自分のために考える。サイドバー「このブログについて」をご参照ください

四天王、来札

「―ーというようなことをさ、現在のおれの状況とか交えながら書いて行こうと思うんだけど」
僕のアパートに着き、荷物を降ろしたふたりに言った。
「きっかけがあってさ、寮小説書こうと思ったわけ。でも、おれのことだからなんか自分以外に急かされないと完成させられないってわかってたから、ほらレポートみたいな感じで、だから市内のイベントっつーか、いわゆる『同人誌即売会』みたいなのに申し込んで、それを締め切りとして設定した!」
 即売会、という言葉が出たときに江国はにやりと笑った。藤沢は表情を変えず、僕の言葉の続きを待っているようだった。
「で?」
「いやぁ、それ来週開催なんだよね」
「いや、書けよ」
江国は吐き捨てるようにそう言い、それからベッドサイドのテーブルに積み上げてあった本の山の上からひとつのファイルを引っ張り出し、その中のちらしを見て「これか」と僕を見た。
「そうそれ、書くよ。だからこそ、今日ふたりが札幌に来るから話をしようと思って用意もしたわけだ」

寮の友人が来札した。二晩はあまりに短すぎ、彼らは来たと思うと汽車に乗って帰って行った。
話の内容は、僕たちが重ねる年齢や過ごす環境、立場によって変わってゆく。大学の話は仕事の話になったし、ダメダメな先輩の話は職場の上司の話になった。新たに加わった話題もあって、結婚とか、今後とか、そういうことだ。
それぞれが秘密や問題を抱えているけれど、それ以外の共有できる部分があまりに多いから、いい関係を保てているのだと実感した。生活の100をお互いに知っているわけではなかったけれど、長い時間一緒に居ることができたというのは、多分はじめのほうからやり方がわかっていたからだと思う。


彼らを見送ったその日の午後、僕はガジェット(名前はまだない)を抱えて再び駅に戻り、ドトールでココアを三杯飲みながら僕たちのやりとりを文章に起こした。恋人を紹介したこと、ジョジョイのジョイのこと、今回来ることができなかったもうひとりのこと、これからのこと。
僕の文章とは、生活や思考を整理する手段だ。だからこそなのか、小説を書こうとすると、リアルタイムで僕が送っているこの生活のことをもっとも上手く書くことができる、いや、これしか書くことができない。よしあしはともかく、高校の頃からずっと、これが僕のやりかたなのだった。登場人物になりたかった僕はこの小説の中で、地元に戻って就職し、折に触れて寮のことを思い出す語り手としての位置を獲得している。舞台は今この場なのだった。
締め切りまで、あと5日。