紺色のひと

思考整理とか表現とか環境について、自分のために考える。サイドバー「このブログについて」をご参照ください

進研ゼミ漫画を読んで次はキミの番になりたい奴ちょっと来い

突然ですまないが、今僕の目の前には、108冊の漫画がある。ただの漫画ではない。いや、実質タダの漫画ではある。
「ゼミなら部活と勉強が両立できるぜ!」「この問題、『チャレンジ』でやったのと同じだ!」「さあ、次はキミの番だ!」
これらのセリフに聞き覚えはあるだろうか。そう! ご存知ベネッセコーポレーションの通信教育「進研ゼミ」の勧誘DM(ダイレクトメール)に同封されている漫画に頻出するセリフである。

本エントリでは、僕が中学生だった頃の進研ゼミDM漫画――ここでは略称を「ゼミ漫」としよう――について語ってみたい。



まず、なぜ「ゼミ漫」がここにあるのか聞いて欲しい。

この「ゼミ漫」が届くのを、当時中学生だった僕はとても楽しみにしていた。弟に届くものも欠かさず読んでいた。楽しみにしすぎて、しまいには集め始めた。クラスメイトの女の子や、弟や従弟、別の学校に通う幼馴染やその妹に頼み…そしてあちこちからゼミ漫が僕の元に届くようになった。普段話さないクラスの女子が噂を聞きつけて、自分の分や彼女の妹の分を僕に持ってきてくれるようになったりして嬉しかった。
高校生になる頃には段ボールいっぱいになっていた。僕は教室の後ろのロッカーにゼミ漫を入れており、学級文庫的な位置づけとして誰でも読めるようにしていた。当時持ち歩いていたノートに、ゼミ漫の起承転結やキャラクタ造形について分析を試みた文章をまとめてみたりもした。
一度、段ボールの中身を破かれたり水をかけられたりする嫌がらせを受けたことがあったが、その行為によって彼らが何を得たのか未だにわからない――まぁ、それはともかく。いよいよ高校を卒業することになったとき、僕は馴染みの部室にその段ボールを預けた。そこは文科系のとある編集機関で、文芸誌や学校新聞のバックナンバーなんかを置くのにも使われていたから、部屋全体がタイムカプセル的な役割を果たすはずだと考えたのだ。



あれから、10年目になろうとするこの夏。僕は母校の学校祭訪問にかこつけて、当時の資料としてこれらを回収してきた。


あの段ボールは、誰もその存在を知ることのないまま、アルミ製ロッカーの後ろのスペースに埃をかぶって置いてあった。嗚呼! …10年もの間、僕を待っていてくれたゼミ漫! 僕の自己主張の強い自我そのものだった煩悩、108冊のゼミ漫! 読まれたらただ捨てられるだけの運命を辿るこれらが、10年の時を越えて僕の手元に再び戻ってきた喜びを、僕はどう伝えたらいいだろうか。
ということで、伝えよう。




お馴染みのストーリー展開

フロー図つくってみた

「ゼミ漫」が「ああ、あれね」と広く認識されている理由としては、「ほぼ全員に届く」という広報の広さの他、「ストーリーに一本筋道が通っている」ことが挙げられる。ゼミを始めたら勉強がうまくいき、部活も大活躍、恋愛だって…次はキミの番だ! という、ある意味マンネリな物語。ダイレクトメールの一部であるに相応しい、非常に合目的的な漫画であると言える。
さて、そのストーリー展開とはどのようなものであるのか。とりあえずフロー図にまとめてみた。



部活動について

もちろん、マンネリを打破するため、実際の漫画には様々なバリエーションがつけられている。
例えば中学・高校生向けのゼミ漫で登場する部活動としては、

運動部:
野球・サッカー・バスケットボール・バレーボール・ハンドボールバドミントン・テニス(硬式・軟式)・弓道・アーチェリー・陸上・卓球・ラクロス(女子) など


文化部:
軽音楽部・吹奏楽部・演劇部・科学部・美術部 など

が挙げられる。剣道部や柔道部に所属している主人公は未だ見たことがない。描くのが難しいからだろうか、それともモテなさそうだからだろうか。
基本的には、人気のあるスポーツ――野球、サッカー、バスケットボール――や、絵的な小道具の少ない陸上部などが多いように感じられる。部活の描写は漫画の描き手によって大きく異なるため、「長距離走でクラウチングスタート」「上からサーブを打つバドミントン」などツッコミたくなるものも中にはある。まぁ、そんなのは重箱の隅だ。まだ部活動のない小学生向けのものには、「リレーの選手になる」「文化祭で皆で発表する」などのイベントに纏わるストーリー展開になるか、「近所の野球チームに入っている」ことで部活と同じ役割を果たすか、があるように思う。

「ゼミ漫」では、主人公の成績が下がってしまうことがストーリー展開上どうしても必要である。成績の悪化の理由として、「部活に打ち込むあまり」は最も用いられ易いものであるようだ。そこから自分で悩んだり、友人に指摘されたり、お母さんに「塾に行きなさい」と言われたりして、ゼミにチャレンジにするきっかけづくりを担う部分であると言える。

誰がチャレンジ薦めたか?

さて、バリエーション多様な点としてもう一点挙げられるのが、「誰が進研ゼミを薦めてくれたか」である。
自分でDMを見てやってみる、というのもなくはないのだが、「異性(好きな子であることが多い)から薦められる」あるいは「ライバルから薦められる」の二通りが主流である。
また、中学校三年生および高校二年生以上、つまり「受験」を意識した内容のものについては、「憧れのセンパイ」――名門高校・大学に行っていたり、好きな子の兄であったりする――に薦められるパターンが増えてくる。

ゼミを始めてからのストーリーは大変「勧誘」を意識した内容であり、教材や勉強法などが簡潔に紹介されるとともに、主人公のサクセスストーリーが語られることになる。このパートのバリエーションが少ないのは当然であろう。ゼミを始めたのにライバルにも勝てず、好きな子にもフラれ…という展開など誰も読みたくないからだ。


続いて、「ゼミ漫」に纏わる、意外と知られていない「ひみつ」について見てみよう。


「ゼミ漫」のひみつ

一部の読者の皆様には既におなじみの「ひみつ」もあろうとは思うが、整理する意味で書き連ねてみよう。

「ゼミ漫」の対象年齢

「ゼミ漫」が最も多く届くのは中学生の間である。三学期制の中間・期末テストに合わせて届けられるためである。このため、学校が前期・後期の二期制を採用している場合、中間テストが終わった次の週にDMが届いたりもする。
もちろん高校生にも届く。こちらは大学受験を強く意識した内容となっている。
ちなみに、小学校3〜4年生から「チャレンジ」の勧誘DMが届くし、未就学児童をお持ちのお母様向けにも「幼稚園児を持つお母さん」を主人公とした「こどもちゃれんじ」のゼミ漫が届く。
こちらが小学生向け。振り仮名あり。


こちらが幼稚園児(を持つお母さん)向け。振り仮名がないことからも、子供向けではないことが窺える。


男女別の漫画が存在する

男子であろうと女子であろうと、DMは同時期に届くのであるが、男子には男子が主人公の、女子には女子が主人公のゼミ漫が届くことがある。
女子向けのものも上記フローを満たすことが多いが、「好きな子」に該当するポジションが同級生の男子ではなく「憧れのセンパイ」と重複した役割を果たしたり、部活は特に描写されずに女子同士頑張ってテストでいい点取ろうね、という友情物語になっていたり、と思春期の複雑なオンナノコ事情を一部反映したものとなっている。大変興味深い。


シナリオは使い回しされることがある

以下の二作品・二組をご覧頂きたい。




見て分かるとおり、これは「同一シナリオを異なる漫画作者が描いたゼミ漫」である。片方が僕、もう片方が僕の弟宛てとして届いた。僕が中一のときに読んだものと同じシナリオの漫画を、二年後中一になった弟が別の絵で読んだ、ということだ。
このことから、特定時期に流用されるシナリオが用意されており、年度によって別の漫画作者が描く例があったことが窺える。全てではなく、むしろ珍しい例かと思う。


進研ゼミの「チャレンジ」じゃない勧誘漫画もある

同教材は、基本的に中間期末試験および受験を想定した学習を目的としたものである。この勧誘を行うDM漫画を総称して「ゼミ漫」と呼んで来たが、中には「チャレンジ」以外でも勧誘漫画が届くことがある。


こちらは「英検ゼミ」、その名の通り英語検定向けに特化した教材である。ベネッセ。


こちらは同じくベネッセの「ポケットチャレンジ」。進研ゼミの「チャレンジ」に付随する電子学習教材で、教材のカセットを入れてゲーム感覚で学習することをウリにしている。それにしても最初のセリフが「私たち…受験終わるまで会わないほうがよくない…?」とは、僕が送るべくもなかった学生生活の描写で、なんか今更のようにモヤモヤしてくるな。


会社変わってこちらは「Z会」。増進会出版社による通信学習教材であり、ゼミよりもやや堅い印象を受ける。


「ゼミ漫」の描き手について

「ゼミ漫」には、常連とも呼べる漫画作者の方が多数存在する。その中には漫画商業誌でお仕事をされている方も一部散見され、中々興味深い。一例を挙げる。


純情箱入り未亡人奈々 (アクションコミックス)

純情箱入り未亡人奈々 (アクションコミックス)

※18禁作品を手がける漫画家さんである。気づいたときはびっくりした。



※主に中学生向けに登場。頻出し、おなじみの絵柄の方のひとり。


  • ソウ

マンガで分かる心療内科 1 (ヤングキングコミックス)

マンガで分かる心療内科 1 (ヤングキングコミックス)

※僕が学生だった頃には登場したことがなかったが、最近「進研ゼミ中学講座の漫画が今月もヒドイ件進研ゼミがついに始まったwwwwww ‐ ニコニコ動画:GINZAなどで氏の活動が報告されている。



最近の「ゼミ漫」

今更言い訳をするようだが、これまで紹介してきたストーリー展開は、僕が中学生・高校生だった10年以上前のものだ。しばらく僕がゼミ漫界から離れていた間に、随分と大きな変化があったらしい。最近の「ゼミ漫」については、以下の事例などで雰囲気を知ることができる。


うーむ、最近のはきちんと漫画漫画しててすごい。
ちなみに、本家ベネッセでは、夏休みスペシャルマンガ!進研ゼミ学園高等部という特設サイトを開設し、男子向け・女子向けに特化した漫画を公開しているだけでなく、なんとお気に入りの子とのサクセスストーリーを選んで読めちゃうという実に時代に即した広報を行っているのだ! すごい! ゼミ漫の伝統はやはり受け継がれていたんだ!

【進研ゼミ高校講座】presents 夏休みスペシャルマンガ!進研ゼミ学園高等部


なお、この特設企画は、twitter上でも#zemimangaというハッシュタグを通して語られている。


僕のものよりももっと古い例も。これはチャレメ向け漫画、つまり勧誘ではなくチャレンジをやっているひとに届いた漫画のようだ。
進研ゼミのチャレメ漫画裏話 - Togetterまとめ

なお、僕の「ゼミ漫」紹介よりも細やかな分析は、ベタな進研ゼミのマンガの法則 - chakuwikiなどで既に行われている。



10年越しに「次はキミの番だ!」と言いたい

以上、分析らしい分析もなく、ただ僕の懐古に任せた紹介をしてきた。

それにしても。それにしても、である。
10年越しで、当時読んでいた漫画を改めて読み返してみると、「このシーンなんかいいな」とか「なんでゼミ漫でときめいてんだろ」と当時読んだときに記憶が溢れ出してきたり、「おれも妹の友達とかの憧れのセンパイであってもよかったのにどうしてそうじゃなかったんだ」「妹がいないからだ」と何度繰り返しても飽きない自問自答をしてみたり、「中学生のときにこんな充実した恋愛まみれの生活なんて送れてなかったよッ」と取り戻すことができない既に喪われた物語を懐かしんでみたり……色々と、当時の記憶と直面することになった。
中学生の頃のことを、僕はあまりよく覚えていない。楽しい毎日ではあったはずだと思いたいけれど、どんな顔をしていたか、どんな話をしていたか、どんなことで悩んでいたのか、きちんと思い出せないのだ。僕の「高校を出てから生まれ直した」、という意識は未だに消えない。心のどこかで、あの頃のことを思い出したくない、忘れてしまいたい、なかったことにしたいと思っているのだと思う。
もういい加減、赦してやりたいと思っている。

ここまで読んでくれたキミに伝えたい、やらなきゃなにもはじまらないってコトを。
まずは自分を信じて、最初の一歩を踏み出してみよう。
さあ、次はキミの番だ!


「次はキミの番だ!」
ゼミ漫なら、そう言ってくれるだろうか。それなら、今度は――今度こそは、僕の番が来てもいいはずだ。
今更だけれど、もうあの頃から10年も経ってしまったけれど、僕はこう高らかに叫びたいのだ。


そう、「今度はおれの番だ!」 と。




最後に、僕の手元にある思い出の108冊の中から、名シーンを抜き出して皆様にお届けすることで本エントリの〆とさせていただきたい。


キメ台詞




少女マンガチック

   


青春的シーン




読了多謝!

追記

11.08.11 0:30 商業誌で活動されている方にオオノサトシさんを追加。twitterで教えていただきました。